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■第114話 「木を切る」 2013年2月9日
明日、2月10日は旧正月です。太陰暦は月の満ち欠けをもとにしており、朔(新月)を毎月1日としているため、旧正月1月1日も新月になります。
月の満ち欠けは、潮の満ち引きや生命のリズムと深く関わってきます。太陽の運行は季節の巡りを司り、月とともに生きものの体内時計に影響を与えます。
厳冬期、ソフィアート・ガーデンの木々は、生命活動を最小限にして、静かな深い眠りの中にいます。落葉樹はすべての葉を落とし、常緑の木でさえ葉の色を少し茶に染めて、ひたすらじっと春を待ちます。枝先には無数の蕾がありますが、今は硬い殻に覆われています。
冬は「木を切る」ことに適した時期です。質の良い木材を得るために木を伐採するには、木が活動を停止している時期が良い、と言われます。
『木材大辞典』 村山忠親(著)、村山元春(監修)、誠文堂新光社には、昭和初期に北海道日高地方で雪と氷の中で作業する造材師の写真が載っており「冬季は雑草などの障害物もなく全土が凍結しているのでよく滑り運搬は容易」とあります。運搬の都合として冬の方が良い、という事情も過去にはあったかもしれません。
また、秋に伐採して、一冬の間、谷側を頭に木を倒して山に寝かせる地方もあるようです。
材木の品質という面から考えると、秋から冬にかけての伐採は理にかなっているように思えます。木は材として乾燥させて強度を増すことが必要です。木の含水率を下げるためには、根から幹を伝わって枝葉へ水を盛んに吸い上げる春の時期は伐採を避けた方が良いわけです。
冬になると、軽井沢の大地は凍結します。温かい間はフカフカと柔らかい森の腐葉土も、厳冬期はカチカチに硬く凍り、まるでコンクリートです。地面の氷もツルハシが必要なほど固く締まり、重機ならまだしもスコップで土を掘ることはできなくなります。
3月の彼岸を過ぎる頃になると、ソフィアート・ガーデンの木はまだ眠っているように見えるのですが実は盛んに活動しています。4月の初旬には、
第2話「木の雫」
で書いたように、木の下で佇んでいると樹液がしたたり落ちる音が「ポタポタ」と聞こえるほど、木は盛んに水を吸い上げています。もし、材を得るための伐採をこうした時期に行うと含水率が高くなり、材の乾燥に苦労するかもしれません。
伐採ではなく整枝、剪定する場合も、同様に配慮が必要です。剪定の最適期は、地域や樹種によってそれぞれ決まっていますので、腕の良い植木屋さんや造園業者に相談するのが安心です。常緑の生け垣のように密生させたい場合と落葉樹とでは、剪定時期や方法が異なりますし、剪定が重要な手入れとなるバラも他の樹種とは若干異なります。
ソフィアート・ガーデンには、約100種類の木が数百本あります。地場の自然植生に沿った落葉樹が中心で、樹齢も推定70年以上のものもあり、25メートル超の高木から膝の高さの灌木まで大きさもさまざまです。
樹種も姿も樹齢もさまざまな樹木を、どのようにコントロールすればよいか。私どもは日々、ガーデンの出来事に驚き、喜び、ときには頭を悩ませ、観察と試行錯誤を重ねる中で、木からたくさんのことを学んでいます。
強い風の吹いた後、ガーデンには大小さまざまの枝が散らばっており、中には180センチ以上あるパートナーの身長と同じぐらいの落枝が、下の灌木を痛めてしまっていることもあります。台風後にガーデンを歩く時は、高木の枝に注意しながらヘルメットを着用した上で目視点検をします。
木の病気や寿命、軟弱土壌による自然倒木もあります。ある日、ガーデンの腐葉土の斜面にある15メートルぐらいのミヤマザクラの古木が倒れ落ちたこともありました。
こうした自然の成す更新作業によって、予期せぬ倒木や落枝で建物や車が破損しないように、また人が怪我することのないように、十分に注意して管理しなければなりません。高木の剪定や伐採は専門業者に依頼してクレーンで高所作業をしてもらいます。
小さな枝を払う弱剪定はそれほど時期を気にしなくても大丈夫ですが、大きな枝を強剪定する場合は、上で書いたような理由から春を避けます。
厳冬期は凍結で剪定口が痛むこともありますし、何より氷点下が続く時期の屋外作業は足場が凍って危険です。そのためガーデンの木を剪定する必要があるときは、私どもは秋から初冬にかけて行うようにしています。
「木を切る」「剪定する」という行為は木にとってはストレスですが、全体のバランスを保つためには人手による管理が不可欠です。その点は、枯れ枝といえども勝手に払ってはならない自然植生の「鎮守の森」とは異なります。しかし、コントロールの際に木に余計な苦痛を与えないように配慮することは、
「木の愛」
を受けている人として当然のことでしょう。
そして忘れてはならないのが、樹木は小鳥たちの大事な営巣場所である、という視点です。特に6月は軽井沢の鳥たちが営巣する時期ですので、その時期の剪定や伐採はなるべく避けるべきです。
以前、6月に大木の伐採、剪定作業をしている別荘を見かけましたが、その木々には小鳥たちがすでに営巣中でしたので、なぜこの大事な時に木を切るのだろうと胸が痛む思いでした。
木は土地の所有者の意向で、いつでも好きに切って良い、ということは絶対にありません。とくに大木は、他の生きものへの影響が大きいため、時期や方法を熟慮しなければなりません。大木の伐採は土砂崩れや水災害を引き起こしたり、風の道を変えてしまうことで周囲に迷惑をかけることもあります。
伐採にしても剪定にしても、木が最も活動を停止している(寝ている)間に素早く上手に刃物を当てるほうが、木のストレスを少なくできます。また、こうした時期であれば、鳥の営巣の邪魔をすることもありません。
木は、すべてを受け止めて静かにそこに在り続けます。雪や氷にさらされた木は、吹きすさぶ寒風に枝を揺らし、ただひたすらに耐えています。動くこともなく、人の言葉を話さない木。冬の木々は、無言の姿を通して、たくさんの物語を語ってくれます。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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