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 成長意欲に応える 〜厳しい環境の中でも人が育つ時期はあるが〜

(有)ソフィアート 代表取締役 竺原雅人

【キーワード】
成長意欲、使命感、手応え、張り合い、当事者感覚、名指し、by name、フィードバック、評価、達成感、責任、貢献、効力感、育成と活用、機会開発、適応力

【サマリー】
離職率が高く、慢性的に人材不足の企業にあっても、成長意欲ある若手は、仕事に張り合いと手応えを感じられる間は懸命に活躍する。しかし、このエネルギーは無限に続くわけではない。企業は、人材を活用するだけでなく、中期的な育成や機会開発に取り組み、未来への適応力を育てることが肝心である。

【本文】
以前に担当したある情報処理系の、規模にして300人ほどの会社のことである。会社の業績は長らく低迷しており、人の流動性の高いこの業界の中でも離職率は高いということであった。聞いてみると30歳に近づくことから離職者は急増し、中堅層というまさに働き盛りの人を欠いてしまうという。当社が業界大手企業の傘下入りしたこともあって、親会社からの紹介があり、私が若手向けの研修を担当することになった。

事前の打ち合わせで聞いたところによれば、社員教育は新人の時を除いてはほとんどやっておらず、基礎教育をした後は現場に出したままでケアができていないという。また、今回の研修受講者の年齢のすぐ上くらいから離職者が急増するため、受講者はそのしわ寄せで大変に忙しいということであった。こうした事情ゆえ、社員の会社への帰属意識は低く、会社に対する不満も高まっているため、研修にはガス抜き的な意味もある。また、せっかくの機会だから研修後に幹部も交えた懇親会をやりたいということであった。

担当者とプログラムを話しあった結果、1日研修の最後に「会社への提言、要望」という時間を設けて、参加者にグループで検討したことを発表してもらうことにした。午前中に、ビジネスに必要な思考、態度、仕事の段取りなどについて講義や演習を行い、午後は問題解決へのアプローチや論理的思考などについて取り組んだ後で、グループ別に会社への提言を出すというものである。

午後4時半になると続々と会社の部長以上が会場に集まる。ここには社長以下、可能な限り役員も結集する。受講者数とギャラリーの数はほぼ同じである。グループごとの会社への提言では、具体的に、根拠を示して、聴き手に納得してもらうつもりで提案することを求めた。初めての試みであり、聴き手となる幹部の誰もが不平不満ばかりになろうと思っていたに違いない。給与や処遇への不満、そして仕事の厳しさ(少なくとも立場を遙かに超えた役割を担っている)は会社の幹部の誰もが痛いほど分かっている。幹部は、皆、この日はしっかりと愚痴も不満も受け止めたいという覚悟をもっていた。

しかし、始まってみると、実に建設的な、しかも高い視点からの提案が皆の口から出される。講義のなかで「論理的で、説得力ある、建設的な提案」を求めたこともあるが、私自身が予想したよりもずっと前向きで、聴き手に響く主張であった。 一例をあげれば、「幅広いスキルを身につける機会を提供してもらいたい、それがないために、現場が変わるたびに思わぬ苦労をしている」、「プロジェクトマネージャー候補がやめてしまうのは今のままではスキルを伸ばす限界を感じたためだ。だから、常駐先の顧客から引き留められようと会社の強制力で定期的なローテーションを実施してもらいたい」とか、「現場に出てからというもの、会社がどうなっているのかが分からないし、ますます気持ちが会社から離れていく。定期的に会社に集めて情報交換会や技術発表会を開いてはどうか」といった類いのものである。

その他、諸々の提案が出され、経営幹部との質疑応答も行われたが、入社3〜5年目の若手の言動は堂々としたものであった。そこでわかったことは、離職者が続き、上の層の者がいないため、入社2,3年から厳しい仕事にアサインされる。5,6年目となるとかなり高いレベルのプロジェクトを任される。皆が当人の名前(by name)で仕事を引き受け、任されており、休むことなどできない。常に成果を意識し、顧客の厳しい目にさらされており、時には心から褒めてもらい、時には本気で叱責されるといった手応えを感じながら、責任を肌で感じて仕事をしている。誰の発言からも他人事といった感はなく、当事者意識に満ちている。自分が大きなことを任されており、何か不備があれば,顧客に甚大な迷惑をかけてしまうという責任感は大きなものであった。

同じ年代の社員をずいぶんと見てきたが、この会社の若手社員の自覚と緊張感は、個人的特性というよりも、その会社の若手社員が置かれている状況を如実に物語っていた。責任をひしひしと感じながら日々の業務をこなしている。こなすことに全力だが、彼らの目は、その次を見つめている。次々とやめる先輩を見て、将来への不安を感じながらも、あきらめてはならないという気持ちも持っている。少なくとも、会社に法外な要求ではなく、まっとうな提案をすることで、中期的な会社の業績も自分たちの成長とスキルアップとやりがいは両立させられるし、そうしなければならないという切実な思いが伝わってきた。この年代で、20人の受講者全員が、仕事の目的と成果を顧客目線で捉え、責任を自覚していたことには感心させられた。

翻って大きな組織を見ると、大所帯の中で埋没している人見受けられる。目的を見失っている状況に置かれている人もいる。顧客からの期待を直接肌で受け止める機会が限定されており、上司からもフィードバックの一つもない中で、やって当たり前、できて当然で、できなかったら罵倒されるといった環境の中で気持ちが萎えている人もいる。手応えも張り合いもなく、誰からも認めてもらえず、苦しみを分かち合えないで、悶々としている人は少なくない。

ところが、この会社の若手には、張り合いとか手応えといったものは十分にある。ただ、公式に、立場、役割と責任が今を大きく超えるようになったとき、立ち止まって処遇と自分のこれからを考えると、不安と不満が沸騰する。しかし、今は成長実感もあるし、まだ若手であるという勢いゆえ、ひたすらまっしぐらである。 しかし、このエネルギーがいつまでも無条件で続くわけではない。このままいけば、早晩、かれらの先輩と同じような悩みに直面することは容易に察することができる。新たな施策にいち早く着手する必要がある。

こうしてみると会社が社員に対してやるべきことは、身近なレベルのことでもまだまだ多いと感じる。ただ、決して無理難題ではないし当たり前のことでありながら、できていないことが多いと思う。会社(経営陣)と現場の中核の社員との交流の中に会社の発展と社員の成長のためのヒントが隠されているように思う。

2012年6月6日 記

竺原雅人
 
 
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