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 顧客から選ばれる理由 〜自社ならではの魅力を発見し高める〜

(有)ソフィアート 代表取締役 竺原雅人

【キーワード】
選ばれる理由、競争力の源泉、強み、良さ、顧客にとっての魅力、顧客視点、戦う土俵、尖り、集中、競合、
比較、弱み、客観視、メンタルモデル

【サマリー】
事業の成果は、自社・自組織の強みから生まれる。しかし、当事者の多くは、弱みや競合の動きに気をとられ、顧客からみた自社の「魅力」を見落としがちである。大切にしたい顧客から「選ばれる理由」のなかに当該企業発展の鍵が存在する。肝心なことは、実務家が、どこに目を向けるかである。

【本文】
事業における成果は、それぞれの組織の強みから生まれると言ってもよいだろう。競争力につながる「強み」に関して、筆者が研修やワークショップを通して感じたことを述べてみたい。

ミドルや中堅を対象としたマーケティング系の研修のなかで、各自が所属している組織・事業の強みや弱みをどのように認識しているのかを尋ねることがある。そこでわかることは、多くの人が、意外なほど自社・自組織の強みや可能性に気づいていないということである。外部から見ると魅力を感じることであっても、当の本人たちはそれがどれほどのものなのかを知らない。自社や自組織の活動を客観視する方法を持たない限り、強みを自覚せず、その良さを活かさないままほうっておくこともある。もったいないことである。

顧客視点で捉えた「自社の強み」は、自社の競争力の源泉であるといってもよい。そして、こうした強みを把握するためには、顧客との対話を重ねることが必要になる。この地道な活動がないと、自分たちが「選ばれている」本当の理由を把握することができないし、「選ばれ続ける」ために必要なことを察知できない。自社の魅力をより明確に認識するためには、「強み」というよりも「選ばれる理由」と言い換える方がよいだろう。

「強み」といえば、組織の誰もが認識し、条件反応的に自社の強みと宣言する類いのものもある。これらは概して、技術力とか、設計力とか、営業力とか、対応領域の広さといった比較的抽象度の高いものが挙げられる。それ自体、顧客にとっても魅力的なものもあろうが、問題はその先にある。というのは、これらの強みを自認する企業の主語を、自社から競合他社に置き換えても、そのまま通用するものが多い。そこで、問いかけてみる。これらがなぜ、当該企業において強みといえるのか、強みであることを可能にするもの(裏付け)は何か、また他社とどう違うのか。しかし、答えはなかなか出てこない。こうした類いの「強み」には、当該事業・業種にとっての必要条件を先鋭的なキーワードで示しただけのものもある。したがって、顧客からみれば、それだけでは当該企業を選ぶ理由にはならないものである。

一方、弱みについては、時に過大とも思えるほどの反応や認識が見られる。外部からみれば、その会社・組織の「戦う土俵」の外の指標であり、他社と比較する必要がないと思える指標であっても、当事者にとっては、他と比較して劣っていることが我慢ならないかのようである。顧客よりも競争相手の方を気にしている。業界を問わず、こうした傾向はよく見られる。しかし、今や多様化を極める時代である。あれもこれもと、あらゆる領域で他社と仕様を比較して「勝った(優れている)、負けた(劣っている)」と言っても、それ自体、顧客不在の反応に過ぎない。

上述のように、「競争力につながる強みを特定すること以上に、他社よりスペックで劣るところを気にする」傾向は、名門意識が強く、かつドメスティック依存度が高い大企業で感じられる。あれもこれもと八方美人的な発想は、顧客のための発想ではなく、かつての成功法則を引きずった古いメンタルモデルによるものであろう。
ターゲットの甘さは、実は自己の安心のためであり、当人たちの意識に関わらず、顧客のためではない。
結果的に、お客様から見ればコンセプトが不明な、つまりターゲットを明確にしないまま機能を満載した「顔の見えない」商品がリリースされ、ありきたりのサービスが提供される。今日、自由に取引できる環境の下では、こうした商品、サービスが選ばれる可能性は低いことは言うまでもない。総花的発想から抜け出せない限り、高コスト体質の是正も先延ばしとなる。

対照的なのは、勢いのあるベンチャーや中堅企業である。これら新興勢力は、事業で勝つために集中するところが明確である。ヒト、モノ、カネ、情報などが大企業に比べると不足しており、それゆえ、営業力、開発スピード、特化された技術などの「尖り具合」が競争力の源泉、というか、それに賭けている。アライアンス時代ゆえ、ダントツを武器に、自社にないものを他社から得、他社にできないことを提供している。

ところで、ITがグローバル経済を加速させ、国境を越えたサービスが盛んになってから、幾人もの経営者から「ライバルの方を見るな、顧客に目を向けよ」といった類いのメッセージが発せられている。それだけ、ライバルに引きずられた顧客不在の戦いが続いているという証左であろう。そもそも競合のとらえ方自体、旧来のそれとは同じではなく、地理的、空間的、技術的な発想の転換が迫られる。しかし、無意識のうちにも、従前から事業ドメインを同じくする競合や同じ産業内の競合に目を向けてしまう人が多いようだ。そういった競合ばかりに気をとられると、顧客の目的や欲求を満たす活動を始めた新たな存在を見落とすことになり、「進化し、学習する」顧客の動きから遠ざかった活動になりかねない。

競合よりも顧客に、弱みよりも強みに関心をシフトさせなければ価値あるものは生まれない。組織の重要課題の一つは、顧客に選ばれる理由を明確に把握し、そのもとになる自らの強みや潜在的な可能性を探し、それらを育成、強化することであろう。強みや弱みは自明ではない。大切にしたい顧客(現在の顧客だけでなく、将来の顧客、潜在顧客も含む)の視点から意識的に見つけだすものである。

強みを「点」で捉える限り、他社から容易に真似されるかもしれない。しかし、顧客にとっての魅力を構築し増強するという観点から、強みを「線」や「面」に展開できれば、より差別化されたバリューチェーンへと発展していくだろう。

自社、自事業の競争力の源泉は、顧客から選ばれる理由と密接な関係にある。自社のポテンシャルをみつめ、そこに想定顧客にとっての魅力となる要素を発見すること。それをもとに新たな顧客価値づくりに挑むこと。こうした営みは、自社の競争力を高めるばかりではなく、社員の効力感を高めるうえでも重要なプロセスであるといえよう。

2012年6月19日 記

竺原雅人
 
 
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