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その指標で大丈夫ですか? 〜目的を明確に把握し、成果を定義する〜
(有)ソフィアート 代表取締役 竺原雅人
【キーワード】
目標、指標、目的、成果、目標の3要素、定量的、連鎖 目的−手段、総和、
優先順位、価値実現、本末転倒、短期−中長期視点、全体−部分
【サマリー】
目標は身近なものであり、組織においては定量的に把握可能な指標が設定される。ところが、指標が、目的や成果に照らして妥当かといえば、必ずしもそうではない。相応しくない指標が一人歩きして活動を誤った方向に導くこともある。目標設定に際しては、実現すべき価値(本当の成果)を直視することが必須である。
【本文】
組織活動においては、さまざまな指標とどうつきあっていくかという難題がある。一般に、目標というときは、「何を」、「いつまでに」、「どのレベルまで」という、対象、期限、水準を定量的に示すことがセットになっており、これらが目標の3要素とも言われる。もっとも人や組織によっては、目標がスローガンそのものに過ぎないものも散見されることもある。
目標は定量的に示さなければ第三者が評価することができないし、評価できないものは、改善にもつながりにくい。しかし、定量的であるだけでは不十分である。組織活動において目標は必須のものであるが、目標の前に目的があることを忘れてはならない。目的は「何のためなのか」を問うものであり、目的を実現すべき価値と言い換えてもよいし、成果(できばえ)とセットで考えるとよいだろう。
したがって、目的を明確にしたうえで成果を定義し、設定した目標、指標がその目的のために相応しいかを吟味、検証するというプロセスが欠かせない。ちなみに、成果とは顧客の側に発現するものである。貢献対象先への寄与であると言ってもよい。たとえば、スタッフ部門が何か新しい仕組みを導入したとすると、導入したこと自体は成果とはいえない。一つの事実、手段、プロセスである。成果というのは、その仕組みを導入したことによって、ライン部門に(あるいは経営陣に)どのような貢献をもたらしたかということである。
ところで、目標は、上位目標に対しての下位目標、全体目標に対して部分目標がある。これら目標間の連鎖そのものは難しいものではない。たとえば「目的−手段展開による連鎖」と「総和での連鎖」である。前者は、上位者の目標を達成するための手段が下位者の目標として定められる。後者は、部門の目標(たとえば売上高)を達成するためには、A製品(領域)がいくら、B製品(領域)でいくらというものである。
しかし、目的の連鎖となると容易ではないし、時には、目的を見失ってしまい、手段が目的化する(錯覚に陥る)ことすらある。したがって、目標が目的から離れたものにならないようにするためには、目標が、成果(できばえ)の指標となっているかを多角的に検討することが大切である。
指標については、結果系の指標もあればプロセス系の指標もある。短期で結果が出るものもあれば、直ぐには結果のでないものもある。それどころか、指標によっては直ぐに結果を出そうとすれば危険なものもある。
ここで一つ、相応しくない指標を設定したために組織活動を誤った方向に導いたと思われる例を紹介しよう。かつては勢いがあったが、その後失速した、ある外国のPCメーカーの例である。ユーザーサポートの方針を変更したときのこと、興味深い指摘であるので、その箇所を引用する。
「ひとつが他社製のソフトを搭載した場合、保証が無効になることをすべてのユーザーに告知したことだ。そして、さらにコスト削減の観点から、テクニカルサポートにかかってきたユーザーからの問い合わせ電話の処理時間を短縮すればするほど、オペレーターの報酬が上がる賃金制度も導入していた。こうした方針は徐々に顧客満足度の低下を招き、顧客離れを引き起こす結果となった。実際、同社の顧客満足度調査を見ると、この時期に10%以上も満足度が低下してしまった。・・・(中略)・・・ 再びCEOが代わり、『愚かな方針』としてこれらの措置はすぐに廃止された。顧客戦略の歯車が顧客のニーズと見事に噛み合えば、企業は躍進し続け、その歯車がひとつでも狂えば、企業にとって命取りになる・・・」 (出典:宇井洋『なぜデルコンピュータはお客の心をつかむのか−顧客サポートbPの秘密を探る−』ダイヤモンド社、2002年)
これは極端な例とはいえ、誤った指標に基づくマネジメントがいかに危険であるかを如実に物語るエピソードといえよう。
この場合でも、「生産性が向上すれば電話処理時間は短くなるはずだ」とか「電話処理時間が短くなれば、顧客を待たせる時間が短くなって、顧客満足度の向上につながるはずだ」といったように、もっともらしい理由をつけることもできる。
効果的な電話応対のパターンを共有でき、さらに訓練することによって、顧客満足度を向上さ
せることができたならば、そのときに初めて電話処理時間の短縮が将来の目標に
なりうる。
しかし、この例に限らず、目先のコスト削減のために無理なこじつけ目標を強いる例は後を絶たない。
目的や成果を顧客視点(貢献対象先への価値提供という視点)で捉えることなく、己の目先の手柄のための目標を他の目標とリンクさせたために、予期せぬ事態を招いた例はいくらでもある。指標に基づくマネジメントは、熟慮を重ねないと恐ろしい結果を招き、目的の取り違えが命取りになる。このことは肝に銘じておくべきことであろう。
実際、さまざまな活動における目標、指標を見て気になることがある。たとえば、内閣府による「食育推進基本計画」である。そこで示されている「目標値と現状値」、とりわけ朝食を欠食する国民の割合(子どもはゼロを目指す)などは本末転倒ではないだろうか。食育の目的は何なのか、成果はどこに発現するものなのか、朝食を抜くことをやめさせることの優先順位がそれほど高いものなのか、さらには体質の個人差への無理解など、疑問だらけである。百歩譲って、子どもの朝食における欠食率を減らすことができたとしても、それは生活習慣が改善された「結果としての指標」であり、決して先行指標ではあり得ない。無理強いすれば肥満、体調不良を招くだけで、何が、どうよくなるのだろうか。食育基本法が施行されてからというもの、ジャンクフード業者が食育という言葉を利用して出張授業を行うなど利権拡大につなげているという指摘もある。浅慮が暴走するとその先は恐ろしい。
2012年6月11日 記
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