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 ロジカルシンキング研修の企画 〜現在の思考と行動のクセを読み解く〜

(有)ソフィアート 代表取締役 竺原雅人

【キーワード】
ロジカルシンキング、論理思考、フレームワーク、情報の構造化、図解思考、論理的表現、推論、前提、
意思決定、合意形成、暗黙知、演繹、帰納、思考特性、行動特性、共通言語化、視える化

【サマリー】
ロジカルシンキング研修が盛んである。どのプログラムを見ても同じような用語が並んでおり、ちょっと見た目には違いがわかりにくい。しかし、論理トレーニングを中心にしたものから図解のハウツーものまで千差万別である。研修は、受講者の思考・行動特性を直視して企画する(選ぶ)ことを勧めたい。

【本文】
昨今、企業や組織におけるロジカルシンキング研修の実施が増えている。 類似の内容で、ロジカルコミュニケーションとか、時にはクリティカルシンキングという名称で実施されることもある。 自組織内での阿吽の呼吸や暗黙知に依存したコミュニケーションではなく、組織、地域、国境を越えて通用するコミュニケーションが求められていることなどがその背景にある。

研修のプログラムをみると、どの実施機関のものも、演繹と帰納とか、MECEとか、同じような用語が並んでいる。 研修を依頼する側から見ると、どんな違いがあるのか、正直のところわかりにくいのではないだろうか。

実際の中身は、論理学をベースにした論理トレーニング中心のものから、図解思考の活用に終始するもの、あるいはプレゼンテーション研修に近いものまでさまざまである。 なぜか、起承転結が登場するものもある。
そして、ビジネスパーソン向けのロジカルシンキングの図書では、フレームワークなど「論理的表現」に基づくツールを取り上げるものも多い。 フレームワークは諸々の事実や情報を一定の目的、意図のもとに分類、整理したもの(「情報の構造化」)であるため、合理的な問題解決や迅速かつ的確な意思決定のために欠かせない存在である。 したがって、広義のロジカルシンキング研修において、フレームワークは必須のアイテムとなっている。 看板は同じ「ロジカルシンキング」であっても、このように多種多様である。

ロジカルシンキング研修は、階層とか役職に関係なく実施されている。 組織によっては部長クラスがまず受講してみるというところもあるし、中堅クラスや新任マネージャークラスの研修プログラムに含まれることも多い。 また、公募型の研修としても人気を集めている。

筆者が担当するときは、階層に関わらず、通常は、教材の一部は共通である。 しかし、受講対象者の特性に応じて、アプローチは大きく変えている。 各社で研修を実施してわかったことは、少なくともロジカルシンキングに関する限り、企業・団体による理解度や反応の差は大きいが、企業・団体を超えて概観すると、ミドルマネージャークラスまでは階層や職責による差はあまりみられないことである。 ある組織に入って数年も経てば、そこで仕事をしている以上、無意識のうちにも当該組織の思考・行動習慣の影響を受けている。 そのため、研修を受講する人(あるいは所属する組織)がどのようなコミュニケーションスタイルの傾向であるのかをプログラムを決める前に把握することが大切であると感じている。

また、研修を担当して肌で感じることであるが、総じて、「論理的」であるかどうか、あるいは思考・行動習慣がどうかといえば、同一事業を行う企業・団体の中では、部署や職種による違いはあまりなく、むしろ階層(役職)や年齢というか世代による差が大きい。 (もちろん、大企業の中には事業特性が著しく異なる部門もあるため、ここではあくまでも同一事業であることを前提にしている。)

こうした実感を踏まえると、異文化または多様な価値観の中でのコミュニケーションを推進するという観点からいえば、事業特性を同じくする企業・団体内では、階層別の実施よりも部門内でさまざまな階層を交えて実施するほうが、ポジションにとらわることなく理に適ったコミュニケーションが促進され、学んだことが「共通言語化」して効果的ではないだろうか。

さて、ここで研修のアプローチについて、2つの例をあげてみよう。

まずは、長年にわたって新入社員向けに担当してきた会社の場合である。
新人のほとんどが技術系、修士以上(入社時点で博士もいる)である。 理数系出身者の傾向として、理詰めで、論理的、分析的な思考習慣の人が多い。 反面、社会人になったばかりであるため、非技術的事象や一般の社会事情については知識を持ち合わせていない。
この研修では、論理学をベースにしてコンテンツをつくるようにしている。 頭が柔軟で、ものごとを筋道立てて考える習慣があるが、ビジネスの事情には強くないからである。 基礎に力点を置き、正確さを重んじる。 「論理」をめぐる系譜をたどれば、皆が関心を寄せる。 文章を正確な把握や推論の訓練に重きを置く。 さらに、狭義の論理学にとどまらず、前提を疑う(吟味する)という姿勢を強調する。 なぜならば、伝統的な形式論理学でいうところの論理というのは「形」、すなわち容れ物に過ぎず、「前提が真ならば・・・」となるからである。 ビジネスでは前提を吟味する姿勢が欠かせない。
また、ロジカルシンキングは、資料を読んだり、話を聞いたりといった情報を取り入れる時のみならず、自らが主張したり、相手を説得する際にも重要である。 そのため、研修では、論理的に表現する表現することにも力を入れている。 効果的なプレゼンテーションや説得を実現させるうえでは、論理(性)は一部の要因に過ぎないが、欠かすことのできないものである。 いくら思考や分析のプロセスが論理的であっても、その結果が相手に伝わらないことには、影響力を発揮することができないからである。

一方、別の会社の、対象が管理職クラスやベテラン層の場合である。
大半の人の思考やコミュニケーションはロジカルなものではない。 つまり、経験や勘、義理・人情が優先する。 社内ではあたりまえであっても、社外から見るとミステリアスというか、ライバルからみるとその行動は予想もつかないことがあるらしい。 受講者は、演繹法も帰納法も聞いたことがなく、いまさら・・・という反応である。 研修は自主的な意思による参加ではなく業務命令である。
こんな場合、前述の新人のときと同じアプローチだとうまく進められないだろう。 会社の業績がよいこともあり、ロジカル云々を生真面目に進めたところで、受講者に受け付けられないに違いない。 内部的にはコミュニケーションや意思決定においても特段の不具合が感じられていないのであるから、なおさらである。 何も相手に迎合するわけではないが、相手の関心に近づけなければ、学ぶ意欲を喚起することができないまま、研修時間が過ぎてしまう。
そこで、この研修では、論理的表現としての図解思考などを中心に取り上げ、実務への活用を図るようにしている。 たとえば、フレームワークや図解思考を活用してプロセスの「視える化」を促すことで、共同作業の質を高め、納得と合意形成を後押しする。 ここで鍵になるのは、「わかりやすさ」と「意義づけ」である。
さらに、市販されているビジネスケースを用いて事例企業の戦略や行動を論理的に分析することもある。 長年、実務に携わり、自信と実績のある人向けには、実務寄りの内容にすることが肝要である。 フレームワークを扱う場合は、組織の共通ツールとして活用できるように、それらを用いるうえでの留意点、その落とし穴について詳しく説明するようにしている。

このように実施スタイルが違うにも関わらず、ロジカルシンキング研修の目的自体はどの企業、団体でも同じようなものに思える。 それでは、研修を企画する人は、どのようなことに気をつけるとよいだろうか。

企画、実施に向けて必要な情報は、本当のねらいであり、研修企画の背景である。 表向きのねらい(タテマエ)に対する本音といってもよい。 研修講師を務める側から言えば、特に知りたいのは、研修対象者の現在の思考、行動のスタイルであり、それらについての依頼者(スポンサー)の評価である。 たとえば、「経験と勘だけでモノを言うスタイルから抜け出せない」とか、「言っていることが正しいか否かではなく、声の大きな者の主張が絶対という風土で、まともに議論できない状態を打破したい」)とか、「意思決定のプロセスがなってなく、いつも行き当たりばったりで・・・」などがあげられよう。 こうした率直な声(評価、認識)が重要である。

通常、組織における人材育成とか能力開発(個人の資質開発)の場合、組織と個人の「目指すところ(あるべき姿)」を描き、現状を冷静に見つめ、そのギャップを認識するところからスタートする。 このギャップが育成ニーズとされる。筆者も、通常は、目的、ゴールを明確に把握するところから研修の準備を進めている。

しかし、ロジカルシンキング研修に関して言えば、筆者が見聞する限りにおいては、上述のように研修の目的やねらい自体に大差はない。 到達目標はどうかといえば、具体的に示しているところはほとんどない。 なぜならば、研修に期待することと、短期間(短時間)の研修期間の到達水準として測定できることとが対応しない(きわめて限られる)からである。 そもそもの期待であるところの思考と行動の変化に関することは、研修を終えてからの組織的または自己開発の取り組みまでを含めなければ捉えられないからである。

それよりも、もっと重要なことは、受講者の現状を知り、それを起点にコンテンツを考えることである。 今までの思考、行動のスタイルが何によるものなのか、どれほど長い期間、どのような影響を受けて培ったものであるのか。 どれだけ頑固(強固に染み着いたクセ)なのかが多少なりともわかれば、演習やケースの選択のみならず、講義にも反映させられるからである。 研修担当者の認識や意向がいつも正しいとか的確であるとは限らないが、それでも貴重な情報である。 個別企業・団体内で開催される研修の場合、公開講座やテレビ講座と違って、当然のことながら当該組織の意図を反映させ、受講者の現状を踏まえた内容または進め方でなければ、受講者の腑に落ちるものにならないだろう。

ロジカルシンキング研修の時間の枠を考えると、研修の企画にあたっては、学校教育や長期プログラムと違う発想で臨むことが肝心である。そこで、筆者がお勧めしたいポイントを2つあげてみる。

 (1)プログラムとりわけコンテンツは、表向きの目的に合わせてつくるのではなく、受講者の現状の姿にあわせてつくる(選ぶ)こと。
 (2)同一事業を担う企業・団体内では、階層別や公募による実施にこだわることなく、学んだことを組織に残すためには、むしろ同一部門の人がともに学ぶ部門内研修がよい。

これらを踏まえた研修を実施することで、個人の資質開発だけではなく、組織的なロジカルな思考と行動づくりが促進され、業務に役立つ発想や視点が共通言語化されると期待している。

2012年6月21日 記

竺原雅人
 
 
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