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 時宜を得た経験と学び 〜キャリア開発のロードマップを描く〜

(有)ソフィアート 代表取締役 竺原雅人

【キーワード】
時宜、タイミング、学習、経験、育成、現在への適応、未来への適応力、機会開発、進化、リフレクション、
ロールモデル、2つのループ

【サマリー】
人材育成の観点からいえば、適切な時期に、然るべき経験と学びの機会を持つことが大切である。上司は、部下を活用するだけでなく、「未来への適応力」を育てることを忘れてはならない。一方、若手社員は、どんな状況の中でも将来への意思を持ち続け、自らを伸ばすための機会を見つけ出すことが肝心である。

【本文】
組織の中では、皆が、期待される成果を上げようと励んでいる。努力が実ることもあれば、当人の努力や創意工夫だけではどうにもならないこともある。個人の資質を高めることで組織の業績向上につながることもあるが、個人の資質や努力とは別の要因で業績が規定されることが多い。たとえば、明らかな戦略の失敗による業績悪化などは、一般社員の力及ばぬところである。

とはいえ、社員自身による将来への備えが先である。まずは前向き(未来志向)、外向き(外部環境の変化や動向に敏感になる)、上向き(経営的視点)の態度を養うことが必須である。適切な時期に、適切な機会を得て、これから必要なスキルや資質を磨き伸ばしていくことができれば理想である。しかし、経験が浅い若手にとっては、何を、どうすればよいのか、わからないことも多いだろう。だからこそ、上司にはメンターとしての役割が期待される。

しかし、上司といえども日々の業績追求のために追われているし、皆が育成についての責任を自覚しているわけではない。やはり本人の成長意欲とチャンスをつかみ取ろうとする意思と戦略が欠かせない。

入社した当時は同様に期待され、あまり実力差が感じられなかった社員同士が、数年後に再会してお互いの姿に驚くことがある。ある人は、順調に力を磨き、実力を蓄え、自信に満ちている。SE(システム・エンジニア)であれば、いくつかの業種や異なる種類の案件に挑戦し、新しい技術、言語を習得し活用している。また、別の人は、今では最初に学んだ技術だけで業務にあたっており、忙しさと顧客からの期待に応えようという懸命の努力の結果、それ以外のことには思いをめぐらすこともないままである。たまたま、何かの機会(たとえば中堅社員研修とか主任昇格時)に同期の者や後輩に出会って、そこで自己を客観視する。その時に、重いショックを受ける人もいる。そのときの感情は、これまで現場の忙しさにかまけてきたとか、他の可能性に目を向けることがなかったとか、やるべき時にやるべきことをやってこなかったという後悔にも似たものである。そのときに、大切な時期を逸してしまったという念を抱いている。もちろんまだやり直しがきかないわけではないし、覚醒したこと自体がこれからのエネルギーになるに違いない。

順調に歩んだと思える人は、会社や上司の配慮があり、またキャリアビジョンをめぐっての話し合いがなされていることが多い。しかし、こうしたケースはむしろ稀である。仕事の状況、会社の事情は厳しく、仮にどんなに上司や部門が配慮しても、適切な時期に、適切な経験や学習をさせることができるわけではない。そもそも会社も組織も業績を上げるために存在しているのであって、社員を育成することが目的ではないからである。

反対の場合は事情がさまざまである。配属先に恵まれなかったとか、上司と折り合いが悪かったとか、自分の適性のないと思われる仕事に就いたといったネガティブな場合だけではなく、これまではうまくやっていたと自己評価していたけども、改めてよく考えてみると狭い中に閉じこもり過ぎていたとか、失敗を恐れ、目先の評価を気にするあまり新しいことにチャレンジしてこなかったのではないかという場合もある。

結局のところ、育つためには、他力本願ではなく、若手のうちから自分でできることを積み上げるしかない。よく言われるように、やるべきことをしっかりやり、できることを増やし広げ、やりたいことができるようにする、ということである。その際、自らを伸ばす視点とそのための方法、頼りになる人を見つけるという営みが重要であろう。ロールモデルを発見することといってもよい。今の業況、現場、業務にのみに過剰に適応してしまうことは将来への適応力を弱めることにもなりかねない。たとえは飛躍するが、企業も、現在のお客さまに応えることに全力でありが、だからといって、他のことや将来のオプションを検討しないでいると、後々になって痛い目に遭うということもある。もちろん、今の経験や業務が将来、全く分野の異なる仕事で活かされることは少なくない。大切なことは、これまで何を実現し、学び、これからどのように活かすことができるかということである。気をつけることは、忙しさの中で、あるいは反対に居心地のよさゆえ、無意識のうちにも「目の前の世界がすべて」となってしまい、そこで培ったはずのことを応用する力を育てない(育てる必要性に気がつかない)ことにならないようにすることである。

数年前のこと、業種の異なる2つの企業の経営幹部(執行役員クラス)から時を同じくして、「地方勤務の経験を活かすのが難しくなった(キャリア開発のネックになっている)」というぼやきを聞いた。簡単に言えば、次のとおりである。

A社(メーカー)のスタッフ部門には、地方で営業を経験してそれなりの成績を上げてから本社に戻ったメンバーがおり、当の幹部の直属の部下である。ところが、その部下は、幹部の言葉によれば「茶飲み話ばかりがうまくなり」、「(今、これから)必要な知識やスキルを、必要な時期(つまり地方拠点にいた中堅のとき)に伸ばしてこなかった」というものである。部下本人としては、地方の情報に関心を持ち、共感されるような営業スタイルを追求したつもりであろう。実際、名指しされた本人は私も知っており、本人が歴史や地理など、その地方のことはとことん興味を持って調べてきたということを聞いたことがある。しかし、件の上司からみれば、「それだけではないだろう、もっと大切なことをやってくるべきではなかったのか」となるのである。

もう一つのB社はITのサービス会社である。企業のソリューションのためのシステム開発や情報サービスの提供、販売、保守サポート等幅広く展開している。その会社では、国内外の先端企業と厳しい競争を繰り広げており、IT時代になってスピードはいっそう早まり、扱うサービスも複雑化し、ソリューションの難しさは日に日に進行している。そうしたなかで、大企業をはじめとするクライアントから厳しい要求を突きつけられ、それに応えることで社員は成長し会社も発展していく。しかし、すべての顧客が先端のサービスやソリューションを要求するわけではなく、ITブーム(またはITバブル)のおかげもあって、これまで培ったノウハウや関連ネタで食べて行かれた。そして現実に、地方の中堅企業から求められる課題は日本を代表するグローバル企業とは質的に異なることが多い。そこでの商談に必要な要素を満たすことだけをこなして安心してしまう。だから地方経験を経て首都圏などに戻ってきたとき、再教育に思わぬ時間がかかり、戸惑う人が目立ったという。転勤している間に、お客様の方が学習・進化し、意識も知識も先に進んでしまったということである。

今や「素早く学習し、進化する」顧客こそが最強のライバルと言えるほどであり、そうした顧客を凌駕する速度、質、量の学習と実践が不可欠である。さらには、高い水準に達した顧客の厳しい要求に応えるためには、ターゲット顧客と提供するコンセプトを明確にした専門特化路線を歩まないと、何でもやります式の総花路線では通用しない。

2つの場合とも、マネージャー昇格を前にした社員へのコメントである。ともに「首都圏⇒地方拠点」に際しての発想と行動の転換はできていた。しかし、その後の、「地方拠点(中堅企業中心)⇒首都圏(巨大企業がターゲット)」への発想と行動の転換、さらにはそのときを見越しての学習と経験の備えが不十分であったことを指摘したものである。つまり、仕事においては、「今を粛々とやり遂げること」と「将来に備えること」の、いわば2つのループ(廻すループと見直すループ)が必要である。

こうしたことからも、若手社員自らが、組織の内外にロールモデルを見つけることや、定期的に他流試合の機会を持ち、緊張感を持つとか切磋琢磨する環境を見つけておくことが重要である。大切なことは「将来像を描き、時にキャリアビジョンを見つめ直すというリフレクションを忘れることなく、しかし、今をやりきる覚悟をもって今に専心するということと」態度であるといえる。反対に、たとえ、今を懸命に頑張っていても「将来のことを考えることもリフレクションすることもないまま、ただ現況に染まっている」状況になってしまっては、未来を切り拓く力が育たない。

2012年6月10日 記

竺原雅人
 
 
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