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■第58話 「材を活かす」 2012年7月11日

秋は樹種の差がわかりやすい 私どもは、木を育てるのが好きですし、ソフィアート・ガーデンにもともとあるものも含めて、100種類もの木に囲まれ日々を過ごす中で、木の持つさまざまな性質が徐々にわかってきました。そして、自然の中での役割や他の生きものとの関係が見えてくるのも興味深いことです。

「材」として有用な木は、いつか、誰かに、何かの役にたつものとして活かすこともあるかもしれません。私どもの小屋の土台やデッキ、構造に使った、この土地の中で育った唐松(カラマツ)のように。

ところで、この「材」という言葉について、今回はもう少し掘り下げて考えてみることにします。この文字は、「木材」、「人材」などと使われます。漢字のもともとの意味を調べてみると、『字通』(白川静、平凡社)を参照しますと次のように記されています。

山椒は塩漬けすれば長持ちします 「(形声)1.ざいもく、あらき。2.才と通じ、本来のもの、もちまえ、たち、はたらき、ちから、からだ。3.裁と通じ、はかる、きりもりする。4.財と通じ、たから。5.才と通じ、わずか。

(語系)材、才、財(dza)は同声。才は存在を示す字で、存在し機能するものをいう。材・財はその声義を承けて、材用とすべきものをいう。

(語彙)「材技(さいぎ)」才能と技能、「材性(さいせい)」生まれつき、「材智(さいち)」才智、「材能(さいのう)」才能、「材力(さいりょく)」才能と力量」

など、多くの語彙が「才」と同義に使われます。

ところで、隣の項目には「財」があります。これは、
「(形声)1.たから。旧くは貝を宝とし貨幣とした、ふち。2.裁と通じ、たつ、はかる。3.才と通じ、才能、はたらき。4.才と通じ、わずかに、やっと。材と通じ、資材。
(語系)材用の意において通用する。また裁も声義に通じ、はじめて・わずかになどの意に通用する。
(語彙)「財貨(ざいか)」財物貨幣、「財宝(ざいほう)」財貨、「財力(ざいりょく)」支払能力、「財用(ざいよう)」費用」

のように、「おかね」や「たから」という意味合いのものが並びます。

「材」と「財」は、同じ読みで似たような漢字であっても、その語彙例を比べれば違いがよくわかります。「材」と「財」とは用い方が異なり、本来は「木財」、「人財」という語彙はありません。

自生の露草はここでは梅雨に咲きません 「材」の例として、小屋の建築でも用いたカラマツを紹介しましょう。寒い地域で育つ、天然カラマツ(テンカラ)と呼ばれる目の詰まった年数の経ったものは大変な贅沢品と言われます。美しい木肌の色合いと艶、水に強く強度も高い性質は、土台や構造材に使えば家が長持ちしますが、何しろこうした唐松普請を受けてくれる大工さんは少ないでしょう。なにしろ、カラマツは大変癖のある木なのです。

カラマツは左右にねじれて育つゆえに、材になったとたん、そのねじれが暴れだすと聞きます。それが構造に使われるとがっちり嵌まり、かえってそういう性質によって丈夫な家になります。その一方で、こうした荒馬を乗りこなすには、腕が必要です。つまり木のことを知り尽くした技と経験をもつ人が製材加工し、上手な大工が組まなければいけません。

小屋を建てた建築会社の会長さんが訪ねてこられて、お茶を飲んでいる時に、材の話の中で「カラマツという木は、暴れる、ヤニが出る、というあらゆる木の欠点を持った材である」という意味のことを、言葉少なに語りました。ただ、そうは言いながらも、暴れる材を見事に組み伏せて、いい家をつくったという自信と意気が、穏やかで口数の少ない表情からは読み取れました。カラマツの伐採から乾燥、製材、家づくりまで、すべてを相手の好意にすがってお願いした私どもですが、苦労の多い「材」をみごとに活かしていただいたことに改めて感謝しました。

花の組み合わせもまた楽しい 木だけでなく人も、一人ひとりの性格や持って生まれた才能があります。欠点の多い問題児のようでいながら、その人でなければ出せない味で仕事をする人もいるでしょう。ゆったりと穏やかでいながら、組織の要になる人もいるでしょう。

ソフィアート・ガーデンの高木や大木を移植する作業は、いつも、とある植木屋さんにお願いしました。その親方には何年も庭のことでお世話になっていますが、普段の姿はすらりと小柄で身も軽く、穏やかで声も態度も威圧感が全くありません。いつも丁寧でツボをおさえた仕事には安心感があります。

今年は虫に全部蕾を食べられて咲きませんでした 親方は、おもしろいことに、土木に関係する作業員や他社の現場の人々に混じればすぐに場の要になります。誰が何も言わなくても、誰の意見が絶対か、という時のリーダー役に自然になってしまうのです。やはり親方としての風格と気合いが、同業の人々には伝わるのでしょう。そういうリーダーの采配の下では、現場の人々の役割は見ていて不思議なほどうまく割り振られます。プロレスラーのような風体の若い作業員も、親方の前では子猫のようにかわいらしくなり、頑張りを見せます。

木も人も、材としてクセを読み、適材適所を目利きやリーダーがうまく配し、使い、育てることによって、木はいい家になり、人は集団や組織で活きる存在となります。

ところで、企業や組織において従来は「人材」と呼んでいたものを、あるときから「人財」と漢字を変えて表記することが見られるようになりました。

私は、その表現を見るたびに違和感を覚えます。上述したように、「財」の文字のもつ、もともとの意味をたどれば、人を、まるで資材部が調達する「コスト」と考える発想が根底にあるように思えます。そこには、「才能」、「特性」への敬意が感じられませんし、育てるどころか、消費財として扱っているように見えてしまいます。さらには「人材」の「材」という文字の意味を「材料の材、単なるマテリアル」として否定的にみる意見もあるようですが、文字の持つ本来の字義を誤解や曲解に基づいてとらえており、残念に思います。

お互いに引き立て合って美しく さまざまな人がある目的の下に集まり、各人の持って生まれた「才」が活かされる組織は強いし、個々の総和を超えた力を発揮します。人の「材」を見定め、育成し、「適材適所」で組み合わせてすばらしい組織をつくりあげていくはずのマネジメントの思想が、「人財」ということばからは見えません。

百歩譲って「財」を「たから」という意味で理解しても、なんとなく「おかね」の姿がちらつく「財」には、人の適性を見定め、場を与えて、人を育成するという責任を企業が放棄しているように思えてしまいます。まあ、おかねだって、育てるという発想はないわけではありませんが・・・。

家づくりに向き合い、「材」というものを考え、吟味していくなかで、人に対する考えかたにもつながるものがあり、興味深く思った次第です。


ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート スタッフM( 竺原 みき )


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