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■第83話 「建前」 2012年9月20日
秋分の日に近づき、明るい日差しが斜めに家の中に入り込むようになりました。自宅の居間のとある壁は、春分と秋分の昼頃に、ちょうどスポットライトを浴びたように明るくなる場所があります。その壁に日が当たり始めると、もうすぐ春分や秋分の時期であることに気がつきます。まるで古代の天文観測です。
家に入り込む日差しの質と量を調整するのは、軒と庭木の役目です。日本家屋における「深い軒」は、日本の風土にとてもあっており、高度な知恵の産物といえます。軒は雨風から家を守ることはもちろんですが、太陽光の照明を四季にあわせて変化させ、暮らしの舞台としての家を演出し、住む人の気分を変えてくれます。
夏は、太陽の南中高度が高く、深く出た軒庇によって強い直射日光は遮られ、家の中に入り込むことはありません。一方、冬は太陽の南中高度が低くなり、日差しは軒を斜めに通過して家の中に招き入れられるようになります。さらに南側と西側に落葉樹が葉を茂らせていれば、夏期は木漏れ日を通した間接光のような光を、寒い時期は落葉樹も葉を落としてすっきりと明るい光をもたらしてくれます。
居間の南側には、和紙ガラスを張った大きな高窓があり、深い軒のおかげで夏は直射日光が入らず空の明るさで間接的に明るいのですが、秋から春にかけてはサンルームのように明るく、そして温かくなります。寒い冬は家に籠もりがちになりますが、それでも家が明るく暖かだと元気が出るものです。お日様の力のありがたさを実感します。
今回の話題は、家づくりにおける建前(たてまえ)です。「本音と建前」ということばは良く知られていますが、もともとは建築における「建前」からきているようです。家づくりにおける「建前」は、建築の中で特別に大事なことであり、上棟(じょうとう)、棟上げ(むねあげ)ともいいます。
家を支える「基礎」のコンクリートが養生期間を経てしっかり固まると、その上に土台(どだい)引きをして、ある日いっきに柱や梁(はり)、桁(けた)、棟木(むなぎ)などを組み上げていきます。建前のときは、たくさんの建前(たてまえ)大工さんたちが集まり、大勢で力をあわせてカケヤなどでコンコンと組み合わせます。今まで上物が何もなかったところに、構造だけとはいえ大きな家が一日でできあがるさまは、施主や工事の当事者でなくとも、驚きと感動があります。
私どもは自宅もガーデンの小屋も、二度とも建前の日に出張などが重なり、ほとんど立ち会っていません。
自宅の建前は9年前の2003年12月末でした。当時は東京在住で、仕事の関係で軽井沢に来る日程がとれず、建築会社の大工さんたちの日程を優先して施主不在で建前をしてもらうことにしました。
それでも少しの時間だけ現場に行きましたが、ホワイトクリスマスの大雪の降った翌日、真っ青な空に白い雪に覆われた中で建前が行われていました。
数メートル上の梁の上を大工さんたちがひょいひょいと軽やかに歩き、私なら足がすくんで一歩も動けないような高所作業を難なくこなしていきます。クレーンで構造材を吊り上げながら段取りよく組み上げていく連携の様子を、私どもは離れた場所から見守りました。
小さい敷地にクレーンや工事関係者の車が何台もひしめき、木材もたくさん積んであり、現場は一種独特の、晴れやかで緊張した空気に満ちていました。少しの時間だけですが、立ち会うことができてよかったです。
後日改めて建築現場に行く時間ができましたので、簡単ではありますが上棟式を行いました。建築会社の設計や営業の方に、建前の大工さんたちに何か差し入れたいと相談したところ、大工さんたちはお酒を飲まず甘党の人が多いので、お酒ではなくお菓子で、ということになりました。
北西の一番高い棟木には棟札がとりつけてあり、上棟式では大工さんが並んで、一人の年輩の方が棟上げの祝詞をあげてくれました。家の構造材だけで、壁も屋根もない中、冬の軽井沢の凍った外気にさらされていると冷凍庫の中にいるようで、痛いぐらいに寒いのですが、このような中で大工さんたちが黙々と手際よく仕事を進めている姿に、私どもは感謝の気持ちでいっぱいでした。
そして2年前の2010年の9月中頃には、ソフィアート・ガーデンの小屋の建前を行いました。このときも建前のタイミングと出張が重なり、帰ってきたら小屋組ができあがっていました。
大勢の建前大工さんが集まるためには日程調整が難しく、出張が多かった私どもにあわせていたら小屋が建ちません。大工さんの日程優先で、と建築会社にお任せしていたので、施主不在の建前はやむをえません。
それにしても、自宅の建前は大雪、ガーデンの小屋の建前は雨でした。両方の建前とも、偶然に水に関係する天気の日となりましたが、火が最大の脅威である木造建築において、水( 雨や雪 )は縁起が良いとも言われています。 何事も、ものは考えようです。 しかし雨や雪は、高所で作業する建前大工さんたちの足場が悪く、濡れて体も寒く風邪をひくおそれがあるため、その点だけが心配でしたが、幸い、安全に工事を進めてもらえました。
お世話になった建築会社では、建前大工さんたちも、造作(ぞうさく)大工さんたちも、皆お酒を飲まずたばこも吸わない、甘党の人が多いと聞いていましたので、出張のたびに、いろいろなめずらしいお菓子をお土産に、邪魔しない程度にお茶とともに差し入れに行きました。
特に、構造ができた後に現場に入り、壁や天井を含め、内部の仕上げを最後まで行う造作大工さんは自宅の時と同じ人で、何度も顔をあわせていますのでとても安心でした。物静かでシャイな方で、丁寧な仕事が他のお客さんからも高い評価を得ています。その大工さんはキノコにも詳しいので、ガーデンや自宅に生える謎のキノコを見てもらっては判定のアドバイスをお願いし、いろいろ工事以外でもお世話になりました。
いつも元気で明るく鼻歌まじりの大工さんもいれば、無口で物静かで芸術家肌の大工さんもいて、性格もさまざまですが、いつも感心するのは、一流の大工さんたちは生活の基本動作がすばらしい、という点です。当人たちにとっては、あたりまえのことでしょうが・・・。いつ現場に行っても、後片付けや整理整頓、清掃が行き届いており、外履き靴は、常にきちんとそろえてある、など、「 しつけ 」がないがしろにされる現代において驚くほど基本動作の習慣が行き届いているのです。
「 一事が万事 」という言葉を思い出します。人の本当の姿は、何気ない小さな言動にこそ現われるものです。日常の小さなことにも常に丁寧な言動を心がけている人は、大きな仕事でも同様にやり遂げると思います。
もっとも大工さんの仕事は、ミリメートル以下の単位で丁寧に正確に仕事をする積み重ねで、大きな家が仕上がるのですから、良い仕事をする人が小さなことにまで万事に行き届いているのも当然のことなのでしょう。
大工さんは、棟梁が弟子を育て、一番弟子が次の弟子を育てていく、という徒弟制度のなかで、日常の細々した生活態度を含めたしつけを厳しく行い、同時に仕事できる腕を磨いていきます。
仕事さえこなせば、あとはお構いなし、というのではなく、礼儀作法も道具の扱いも、生活態度もすべてが仕事につながるものであり、立派な人間として育てることを目指していると思われます。
お世話になった建築会社の特徴なのかもしれませんが、一流の大工さんは穏やかで物静か、慎重できめ細やかな印象を受けます。
仕事の質や現場の安全については、妥協を許さず厳しいのですが、弟子に対しては頭ごなしではなく論理的で理知的な指導をしています。もっとも、怒鳴り散らす必要のない、良い人材を育てている、ということでもありますが。
家づくりに当事者として関わると、工事中の緊張や近隣への気疲れもあり、心身ともにへとへとになってしまいますが、実はこれほどおもしろくて勉強になることはない、とも思います。もともと伝統的な日本建築や古い洋館など、建物を鑑賞することが好きな私にとっては、この期間は寝ても覚めても建築の世界に遠慮なく没頭できて、本当に楽しかった!というのが正直な感想です。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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