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■第90話 「芸術の秋」 2012年10月8日
この週末は天気も良く、連休であることも重なってか、軽井沢には真夏並みに人が押し寄せ、車道が大渋滞していました。
いつもは裏道を使って、自宅からガーデンに車で向うのですが、なぜか今回は裏道まで混んでいます。裏道に詳しい人が多いことから、今回の混雑は観光客というよりも、別荘の住人やリピーターの来訪であると想像できます。
10月初旬の軽井沢はストーブなしでは寒いため、別荘の住人も多くは森の家に別れを告げ、別荘地は人の気配も少なくなります。しかし昨今は建築事情も変わり寒冷地仕様の別荘も増え、週末を利用して別荘を通年使う人もめずらしくありません。特に軽井沢の春(5月)と秋(10月)は美しい季節です。住まいの寒さ対策さえ講じれば、とても過ごしやすく、夏よりも魅力的なシーズンだと思います。
そのためこの時期は、週末ともなると思いがけず道が渋滞していることがあります。 パートナーは、このところ休みの日はなにやら油絵を描いており、近くの画材店は休日でお休みでしたので、近郊の画材や額縁などの専門店まで絵の具を買い足しに車で出かけました。近郊の地域では道路の渋滞は全く見られなかったそうで、この長蛇の車の列は局地的な現象でしょう。
軽井沢には、個人や法人、画廊などが収集した作品を展示する美術館がいくつかあります。また木工作家や陶芸家などがアトリエを構えており、ソフィアート・ガーデンの近くにも、そうした工房がいくつかあります。
夏は鬱蒼と暗かった森や林も、今は木々がだいぶ葉を落として秋晴れのまぶしい光が差し込むようになりました。そんな中にある工房で、創作活動にうちこむ作家さんたちのアトリエは、まるで、おとぎばなしや夢の中の風景のようです。
また音楽について言えば、近年は大賀ホールという立派な音楽ホールができ、そのほかにも個人が運営する音楽ホールも複数あります。町の規模にしては、芸術に関する施設が充実しているのは、やはり長い別荘文化の賜でしょう。
以前、パートナーの知人でクラシック音楽愛好家である方がスポンサーとなって開催するコンサートに行く機会がありました。長野県内のたいへん歴史のある施設のオーナーであるその方が主催する、著名な演奏家を招いてのサロン形式のコンサートは、手の届く距離で奏でられる一流の演奏に没頭できる素晴らしいものでした。聴衆としてお子さん達も何人かいましたが、みな楽器を習っているためか大人より熱心でマナーの良い観客として、夢中になって前のめりに耳を傾ける姿が微笑ましいものでした。
こちらに住んでから知り合った方の別荘で、夏にバーベキューパーティーに招かれ、そこで小さなご子息がそれぞれに得意な楽器を奏でるのを聴く機会がありました。立派なステージマナーと演奏への集中力がすばらしく、成長されて後もきっと音楽を愛するすてきな青年に育つことでしょう。
音楽や絵画も、工芸も、鑑賞する人がいるからこそ、芸術に身を投じる表現者はその世界で生きていくことができます。
芸術で身を立てるというのは、たいへんなことでしょう。芸術を生み出す才能だけではなく、それを支える存在が不可欠です。芸術家を支えるパトロンや芸術を理解し、享受し、高めるための聴衆や観客、購買層がいてこそ芸術も文化も栄えます。 日本の昔の話ですが、パリに逗留して絵を学ぶ、才能ある人々を支えた有名なパトロン、バロン・サツマ(通称、薩摩男爵)の話があります。
才能を見抜く目と財力とを兼ね備えた支援者がいてこそ、名だたる芸術家たちも今に名を残すことができたのでしょう。
最近の日本の働き盛りの男性は、芸術に関心がないのではと思うときがあります。コンサートや美術館などで遊ぶ壮年期の男性をあまり見かけないように思えるのは、私の気のせいでしょうか。
パートナーと私が音楽会や美術館、工芸作品の展示会などに行っても、ほとんど周りは若い世代かリタイア後の世代ばかりです。壮年期の女性たちはどこでも元気で圧倒される勢いですが、その配偶者であろう世代の男性はほとんど見かけることがありません。
あるいは芸術に関心がないのではなく、仕事に精一杯で時間的な余裕がないのでしょうか。野球やサッカーなどのスポーツ観戦や、ゴルフなどのレジャーと比べてみると違いが分かるかもしれません。
ところで、日常の中で歌や踊りや楽器に親しみ、皆で集まって楽しむ文化が今でも残っているところがあります。私の沖縄の親戚は、夕食時に私どもが遊びに訪ねたとき、サンシン(三線)を取り出して「一緒にどうか」と歌いだしました。ゆるやかな島歌の調べが、海の潮の香りと月の明かりに溶け込むように響き、ゆっくりと時が流れます。
もちろん、日頃から楽器や歌や踊りを熱心に練習して、常に上手にできるように腕をみがくことは言うまでもありません。沖縄の八重山には、長年の伝統として即興の歌をうたう「トゥバルマー(とぅばらーま)」があり、そのコンテストも開かれます。まるでドイツのマイスタージンガーのようです。こうした教養を身につけてこそ一人前の人である、という暗黙の了解のもとに、老若男女が芸能の心得をもつために研鑽する地域が、世の中には残っています。
こうしたことを大人が率先して楽しむことで、子供や孫の世代も芸能や芸術へ興味をもち、ゆたかな感性が脈々と受け継がれていきます。芸を真剣に遊ぶことは、高い文化レベルの証であり、現代人がもっともっと本気で取り組んだ方がよいのでは、と思うことでもあります。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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メモ(本文とは直接の関係はありません)
次の第91話は10月15日(月)に掲載します。
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