>> ホーム
>> 会社概要
>> 事業内容
>> ソフィアートの研修
>> 代表者プロファイル
>> 研修雑感・コラム
ソフィアート・ガーデン物語
>> 序 「案内係のMです」
>> 第71話〜第80話へ
>> 第81話「自然の脅威」
>> 第82話「草を刈る?」
>> 第83話「建前」
>> 第84話「十牛図」
>> 第85話「秋雨の週末」
>> 第86話「小鳥の性格 2」
>> 第87話「小さな家」
>> 第88話「物語の意味」
>> 第89話「お茶の時間 9」
>> 第90話「芸術の秋」
>> 第91話〜第100話へ
>> 連絡先
>> Coffee Break
ソフィアート・ガーデン物語
>>前の物語へ
>>次の物語へ
■第87話 「小さな家」 2012年9月28日
どうして、人は家をつくるのでしょうか。
野生動物の場合でしたらどうでしょう。私には詳しい知識はないのでよくわかりませんが、ビーバーのダムなど、建設工事のような行為を行う動物もいますし、アナグマやアナウサギなど、地中に複雑な巣穴を掘って生活する動物もいるようです。
ネズミも巣をつくります。モグラも地中に穴を掘ってミミズなどを食べて生活します。 繁殖や休息、寒冷地においては冬眠など、巣は生活の中で重要な役割を果たしております。
こうした、巣穴を掘る動物もいますが、たいていは岩や土の窪み、大木の樹洞など自然にできたものを繁殖や休息に利用しているのではないでしょうか。軽井沢の高木の多い場所に生息しているムササビも、大木の樹洞(あるいは樹上に掛けた大きめの巣箱)を巣として主に繁殖とねぐらとして利用します。
鳥の場合、営巣するのはあくまで子育てのためだけです。ハトのように小枝を荒く組み合わせただけの適当(と私には見える)な巣を作る場合もあれば、メジロのように藁や細枝などを上手に組み合わせた小さな籠のような巣もあります。一度ヒヨドリが庭に営巣したときは、どこからとってきたのかビニール紐が巣材に混じっていました。鳥の巣についての本は、鈴木まもる著『ぼくの鳥の巣絵日記』(偕成社)が詳しくイラストもきれいです。その本を参考に、私も使い終わった後の鳥の巣を観察することがありますが、鳥の巣というものは素材や形状、作る場所など、それぞれの鳥の知恵が形になったものであり見ていて飽きません。
私どもの用意した巣箱にも、シジュウカラなどが営巣します。秋には巣箱を掃除して来年の春に備えます(忙しくて、ついそのままになってしまう年もあります)。その時、巣箱の中に深さ20センチメートル近く敷き詰められた苔のベッドを取り除きますが、それらは虫も排泄物もなく、きれいで清潔なフカフカのベッドです。巣の苔のベッドは、親鳥の愛の象徴のようにさえ思えます。ちなみに、カラ類は親鳥がヒナの白いカプセルのような排泄物をくわえて外の遠いところに捨てに行きますので、このように清潔なのです。そうでない鳥、たとえばモズは、ヒナが自分で巣の外に向って排泄するだけですので、巣も若干汚れています。ツバメも同様です。
何年か前のことですが、自宅庭のモミの木にモズが営巣し、風呂場の窓からヒナの様子がよく見えました。観察していると、突然ヒナの嘴から、なにやら黒っぽいエイリアンのようなものが出てきて驚きました。その当時、八ヶ岳倶楽部に遊びに行った折りに、野鳥に詳しいスタッフの方にこの話をしたところ、モズのヒナは未消化の食べ物の塊(「ペレット」とよばれる)を吐き出す、と教えてもらいました。
昆虫でしたら、ハチやアリのように集団生活を基本とする虫は大きな巣を作り、集団で卵や幼虫を育てます。
この場合は住まいと言うよりあくまで、所属する集団の繁栄のために巣を築いているようです。個々で生活する虫は、たとえばクモは狩りの場として巣を張ります。小雨や霧の日に、蜘蛛の巣に細かな水滴がつくと、巣の美しい形にほれぼれすることがあります。
私どもの庭では鳥がクモを食べてしまったり、営巣の時期にはエナガが蜘蛛の糸を巣材にするために、せっせと蜘蛛の巣を嘴で集めてまわりますので、いつの間にか蜘蛛の巣はなくなってしまいます。
他にも、オトシブミのように葉で卵をくるんだり、ハキリバチのように、見る間にまあるく葉を切り取って竹筒の中に詰め込んだりします。これらも卵のための家づくりであって、自分自身がそこに住むことはありません。
子育てのためだけでなく生活するために家をつくるという行為は、こうして雑多な例を挙げて考えてみると人間以外の野生動物でも多少いることに気がつきました。しかし、どちらかといえば体力的にひ弱で捕食される側の生きものの特徴であるようにも思えます。弱い身を守るために、生き残るために、ということが巣づくりの原点なのでしょう。
人間も「家」がなければ、野宿では健康に生きることが難しい動物です。たとえば軽井沢で一冬の間、屋外で寝泊まりすることができる人間はほとんどいないでしょう。森の野生動物を見ていると、本当にたくましい生命力だと心から思います。 人間は弱いからこそ知恵を使って、外敵を防ぎ、自然を克服して寒さや暑さをしのぐ工夫を重ねてきました。しかし身を守るという生存の欲求だけにとどまらず、欲望は無限に拡大します。もっと安全に、快適に、もっと贅沢に、豊かに、そしてもっと大きく・・・。
壮大で豪華な建築物は枚挙に暇がありません。 歴史的な構造物でしたら、その目的に見合った大きさや豪華さは良いことでしょう。 大家族が一同に集う田舎の大きな家も然りです。しかし、家は小さいほど格好いいと、私は内心では思っています。どうしても欲や見栄などが捨てきれず、余分なことを形にしてしまいがちな中で、小さくて素材が良くて知恵のつまった家を見ると潔さを感じ、人間でありながら鳥の仲間に会ったような感動を受けます。そして小さな家には、住まう人の、欲にとらわれない満ち足りた暮らしが見える気がします。
ソフィアート・ガーデンの小屋も、そんな小さな家の仲間に入りたいと願っています。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
関連する物語
>> 第8話「小鳥の結婚式」
>> 第17話「巣箱」
Copyright (C) 2003-2012 Sophiart Inc. All Rights Reserved.