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ソフィアート・ガーデン物語
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■第8話 「小鳥の結婚式」 2012年4月19日
冬の間はいろんな小鳥たちが集団行動をします。カラ類と呼ばれる、シジュウカラやコガラ、ヤマガラ、ヒガラ、そしてそれに混じってエナガ、コゲラなどが小集団を形成し、仲良しかどうかを問わず近い範囲で行動し、お互いの動きをチェックしながら食べ物を探したり、危険を回避したりする姿が見られます。こうした集団形成は「混群(こんぐん)」と呼ばれます。
やがてフキノトウを見かける季節となると、こうした混群も解消され、基本的にメスとオスのツガイによる縄張りを主張する行動に移ります。縄張りを声高らかに宣言する美しくよく透る声、これは「さえずり」と呼ばれ、普段の、やる気の無い地鳴きとは違い、気合いの入ったものになります。
ウグイスの「ホーホケキョ」、シジュウカラの「ツツピー」、ゴジュウカラの「フィーフィーフィー」、ヤマガラの「ツンツンピー」など、鳴き方には鳥の種類ごとに特徴があります。
また、場所によっても、個体によっても、よく聞き比べるとその声やリズム、イントネーションに微妙な違い(方言のような?)があり、ほんの数キロほど離れた場所でもシジュウカラのさえずりが少し違って聞こえ、おもしろく感じております。たとえばソフィアート・ガーデンでは「ツツピー」の真ん中の「ツ」が高く、そこから一里ほど離れた離山周辺では「ピー」が高いように聞こえます。両方ともたくさんのシジュウカラがいますが、それぞれの方言を共有しているように聞こえます。
一方、同じカラ類でもヤマガラ、ヒガラ、コガラ、ゴジュウカラは、この二つの場所ではさえずりはほとんど変わりません。シジュウカラの場合は、ヤマガラに比べ行動範囲が狭く、癖として代々継承されやすいのかもしれない、などと想像しております。
また、イカルや夏に渡ってくる
キビタキのさえずり
も、この二つの場所では違って聞こえます。しかし、これは継続して何羽も、あるいは何代も観察を続けなければ分からないことです。たまたま観察している個体の「癖」に過ぎないのかもしれません。少なくともここ数年の個人的な観察の印象です。
こうしたさえずりの季節は、小鳥たちの結婚式の風景をよく目にします。メスが羽を振るわせて、ヒナのような甘えた声を出すと、オスがメスに食べ物を口渡しします。「求愛給餌(きゅうあいきゅうじ)」という行動です。
まるで、これから生まれてくるたくさんの雛たちへ休む間もなく給餌し続ける自分たちの近未来を演じているかのような行動です。これは、彼ら自身とても楽しいのか、際限なく何度も何度も繰り返されます。
私どもの元へ、いつもの仲良しのヤマガラ(オス)が慌ただしく飛んで来て、「ビービー!」と焦る調子で催促し、手に乗って落花生を受け取ると、まっすぐペアのメスの待つ枝に行き、プレゼントしている姿をよく見ます。大好物の落花生を、自分自身も少しは食べているようですが、すぐにメスがそばに来て羽を振るわせて「ちょうだい!」と彼に要求すると素直にメスにプレゼントします。そして自分はまた私どもの手まで出張します。プロポーズするのもなかなか大変なようです。
私どものフィーダー
は、こうした小鳥の結婚式における格好のプレゼントの探し場所になっているのでしょう。この時期になると、メスは自分で籠のヒマワリをとることを控え、羽を振るわせ、もっぱらオスからもらう場面が繰り広げられます。でも、たまにはメスも素に戻って自分で食べに来たりもしますので、演じるときと普段とのバランスがおもしろく見ていて飽きません。
ところでカワラヒワのツガイは、この結婚式が特別大好きなようで、羽織の内側のあざやかな黄色い羽を輝かせて、なんども求愛給餌しています。メスだけでなくオスもいっしょに羽を振るわせているように見えます。相思相愛って幸せ!と全身全霊で喜んでいます。シジュウカラなどは、義務的な淡々とした感じで求愛給餌しているツガイもいて、種により個体により、結婚の重み(?)や幸せ感が違うようで、これは人間と同じかもしれませんね。
求愛給餌と同時に、新居を探す必死な姿を目にします。巣箱は争奪戦となり、それこそ夫婦でこれは、と思う物件を見つけたら、即入居しないといけません。少し飛び去った隙に、他のツガイに取られてしまいます。
もちろん自然界の木の洞(ウロ)を利用したり、木をくりぬいて巣を作ったり(アカゲラなどのキツツキ)や、自分たちで枝を組み合わせて作ったり(キジバト)、草などを組み合わせて作ったり(メジロやウグイス)、羽毛と蜘蛛の糸で作ったり(エナガ)など、様々です。
巣箱を利用する場合でも、使用後にその中を掃除する際に驚くのは、ほんとうにここまであの小さな体でよく集めたと思うほどの大量の苔を敷き詰め、フカフカの布団にしていることです。コケだけのこともあれば、犬の抜け毛や鳥などの羽毛、やわらかな樹皮や枯れ草など、ありとあらゆる天然素材を見事に生かして、すばらしい巣を作り上げています。
こうした営巣の素材を求めて、これからの時期小鳥たちは必死になり、夢中になりすぎて、普段より無防備に見えます。よく育った苔の多い場所では、苔を口にくわえて剥がしながら、何度も往復する小鳥の姿や、犬小屋に抜け毛を拝借に行く姿を目にします。
おもしろいのが、私どもがバラを誘引するために麻ひもをくくりつけている目の前で、その麻ひもを毟ってほぐし、顔中ひげのようになっている、
普段仲良しの小鳥たち
の姿です。
こちらはバラを誘引しているつもりでも、彼らにとっては格好の巣材を提供している姿に見えるようで、「待ってました!」とばかりに目の前で麻ひもを毟ってほどいて巣に持って行ってしまいます。まあ、彼らのお役に立てれば私どもとしては嬉しいのですが・・・。
もう、巣作りに夢中になるとまわりが見えなくなるのか、あるいは私どもが彼らの味方であることを知っている安心感からか、麻ひもを手に持って庭仕事のために歩いている私の手の中に、いきなり予期せぬ方向から、小さなヒガラが飛び込んで麻ひもにたかったときは、こちらもかなりびっくりしました。
そのうち、小さな巣箱から、ささやくような、そしてやがては脅迫するような「お腹すいた」コールが、たくさんの雛たちからわき上がり、小鳥の夫婦は寝る間も食べる間もなく、へとへとになるまで虫を雛に届ける姿が見えるようになります。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第8話 「小鳥の結婚式」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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