>> ホーム
>> 会社概要
>> 事業内容
>> ソフィアートの研修
>> 代表者プロファイル
ソフィアート・ガーデン物語
>> 序 「案内係のMです」
>> 第21話〜第30話へ
>> 第31話「土地の責任」
>> 第32話「一流の庭師」
>> 第33話「庭木の役目」
>> 第34話「生命の木」
>> 第35話「初夏の恵み」
>> 第36話「鳥の歌合戦」
>> 第37話「生命の泉」
>> 第38話「庭の炉」
>> 第39話「お茶の時間 4」
>> 第40話「托卵」
>> 第41話〜第50話へ
>> 連絡先
>> Coffee Break
ソフィアート・ガーデン物語
>>前の物語へ
>>次の物語へ
■第37話 「生命の泉」 2012年5月30日 番外編(その6)
今日のソフィアート・ガーデン物語は、番外編、都会のガーデンと絵画の話です。先日、東京港区にある国立新美術館でセザンヌ展が開催されているのを観に行きました。久しぶりの六本木、ミッドタウンです。そして私にとっての魅力は建物の中のお店より、ミッドタウンに隣接する庭園での植物チェックです。
広大なビル群のランドスケープにクスノキやドイツトウヒなどの常緑の大木が映え、ソメイヨシノやケヤキなど落葉樹も心地よい木陰を作っています。
ゆるやかにくねる散歩道は、都会ならではのインターロッキングなどできちんと舗装されています。土の地面がないところは大都会ですね。ところどころにベンチがありますが、どのイスも先客が談笑を楽しんでいたり、適度な距離で人の気配のする、都会らしい良い庭だと思います。
大木の合間には風情のある細やかな潅木が植栽されていましたが、皆、見覚えのある樹種が多用されています。
たとえば芝庭を緩やかに仕切るニシキギの列植、そしてところどころにカシワバアジサイやウツギをこんもりと茂らせ立体感を出しています。 下草は葉の艶やかなツワブキやシバザクラ、シャガなど、日本の植物を中心に日当たりや風通しを配慮して植え込んでおり、植物にとっても無理のない景観を形作っています。
あまり洗練されていない昔の公園では、外国の木や草花が多用され、どこでも同じような感じでちんまりとしてあまり魅力を感じませんが、大都会の真ん中で新しく大規模開発されたところは、都市づくりの専門家の視点が生かされているのか、絵になる景色が作り出されています。近代的で堂々とした造形のビル群と調和するのは、実はこれも堂々とした、日本の大きなクスノキやケヤキであることがよくわかります。
また、ロックガーデンもあり、所々に小さな水場が設けられ、小石で囲ったスペースで、きれいな水が絶えず泉のように湧き出すような設計になっていました。これは、小鳥が好きな人が造園の設計に関わったのではないか、と思わせるアイデアです。
ガーデンの小鳥たちを観察していると、鳥はすべて水が大好きで、餌を置くよりきれいな水場を作った方が喜びます。ソフィアート・ガーデンでは、毎日いろいろな野鳥が来ては、水場で喉を潤したり、水浴びしたり。軽井沢の厳冬期は屋外の水が凍りますので無理ですが、それ以外の期間は雪であっても雨であっても、水場は常に野鳥たちに人気のスポットです。
水場の設け方にも工夫が必要です。
第1話「安心できる木」
でも紹介しましたが、水場は小鳥たちが水に頭をつけたりなどして無防備になる瞬間ですので、水場の周りに安心できる灌木などのシェルターになるスペースを必ず作ってあげなければいけません。
できればネコなどの捕食者に届かないような高さがあればさらに安心でしょう。残念ながらミッドタウンの水場は地面の高さで周りが開放形で隠れる灌木がないため、水浴びしている鳥は見かけませんでしたが、大きさや水の深さが小鳥にとってはちょうど良い水場でした。
設計者は小鳥より犬とともに散歩する人が楽しめる場をイメージしているのかもしれません。
水場の作り方は、都会でしたらスズメが利用することを考えれば良いでしょうが、スズメなどの小鳥は足の長さが2,3センチもないので、水場の深さは数センチにとどめ、小石を敷いて深さを調整すると良いでしょう。
温泉の露天風呂でも、石組みや自然石の腰掛けなどを上手に造り、入る人が心の底からリラックスできるような深さや形を工夫しています。人間だって露天風呂の近くに木や目隠しがないと、あまり入りたいと思えないでしょう。小鳥の水場の理想も、イメージとしてはそのようなものです。
要は、小鳥の体型や水場の利用の仕方、安心してくつろいでいるシーンをじーっと観察すれば、どうすれば彼らが心の底から喜んで、毎日来てくれるかが見えてきます。小さな泉のように、清らかな水がこんこんと湧き出すような水場が理想でしょう。
ところで、ソフィアート・ガーデンの主要なお客様は野鳥たちであることは何度か書きましたが、そういう意味で私は常に鳥の視点からの自然観察(あるいは庭園観察)を心がけています。その際の評価の最重要ポイントは、どれだけ多様な生物がいるか、とくに小鳥たちが生き生きと楽しそうにしているかです。カラスとドバトと人間ばかりでは、私にとっては逃げ出したくなる環境です。
ミッドタウンの庭園にはスズメやムクドリがおり、スズメのつがいがサクラの枝で求愛給餌をしていました。スズメは人間の居る場所でなければ生息できませんが、臆病ですので、こうした生きものが営巣をするならば、この庭園はスズメから良い評価をされたことになり、喜ばしいことではないでしょうか。
さて肝心のセザンヌ展も、とても楽しめました。週末で20時まで美術館が開いていたため、ゆっくり美術鑑賞と美術館鑑賞もできました。私は建物にも植物同様に関心があり、日本各地の町並みと古い建築や現代建築を見て回るのは学生時代からの趣味です。そして絵画や工芸品には、子供の頃から長年親しんできました。
国立新美術館は斬新な建物も楽しく、波形の巨大なガラス壁面が大きな庭木の光を反射して豊かな水をイメージさせます。多くの人で賑わう屋内は、高い吹き抜けホールの効果で高揚感にあふれ、狭苦しさは全くありません。混んでいても、十分に知的な娯楽を楽しめる良い空間だと思います。
また、屋内のミュージアムショップには工芸、美術に関わるおもしろい書籍や品物も多く、時間を忘れてしまいます。
ロビーには自由に座れる椅子、ベンチが設けられていますが、有名なアルネ・ヤコブセンのスワンチェアやエッグチェアも複数あり、名品の椅子に誰でも自由に腰掛けて休憩したり、談笑することもできます。私も大きなエッグチェアに座って本を読んでいましたが、あまりの座り心地の良さに、つい居眠りしてしまうほどでした。(その時、たまたま地震が発生しましたが、地震に際してホールスタッフの案内や対応も安心できるものでした)
セザンヌの『りんごとオレンジ』(1899年頃)の絵画は、まさに百聞は一見に如かず。その絵には果物の精が歌い踊っているかのような、いきいきとした生命感に満ちています。プロヴァンスの明るい光に包まれた果物の、もぎたてのみずみずしさと香りとが未だに漂うかのような絵です。こうしたいきいき感こそが、絵画の魂であることに改めて気づきました。
本物には、常に命の輝きが宿っています。セザンヌの『りんごとオレンジ』の絵画からあふれ出る果汁は、見る人の心の目や喉に潤いをもたらします。甘く薫り高い、生命の泉です。私は美術館を出た後、薫り高いりんごとオレンジのフレッシュジュースを飲みたくなったのは、言うまでもありません。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第37話 「生命の泉」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
関連する物語
>> 第26話「車中の音楽」
>> 第37話「生命の泉」
>> 第78話「小鳥や芸術」
>> 第90話「芸術の秋」
Copyright (C) 2003-2012 Sophiart Inc. All Rights Reserved.