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■第36話 「鳥の歌合戦」 2012年5月29日
初夏の軽井沢の林に、キビタキの美しい声が響き渡ります。鈴が震えるような、繊細な、しかし強い声です。
キビタキの美声を
「トゥリー、トットリー、トットリー」あるいは「ターコヤキー、ターコヤキー」と聞きなしている野暮な私
ですが、今年はあることに気がつきました。どうやら縄張り争いにおいては、「鳥取」や「たこ焼き」の繰り返しの回数の多さが大事なようです。
いつもは優雅なキビタキの声も、同じ種が近くに居て歌合戦で応酬するときは、美しい響きの余韻を残さずに、濁った声でお経のように「鳥取」や「たこ焼き」を必死に繰り返して対決します。指折り数えてみたら、「たこ焼き」を十数回も連呼したときにはさすがに吹き出しました。
しかし、当のキビタキには歌合戦は真剣勝負であり、縄張り争いに負けるわけにはいきません。笑うなんて言語道断、私はキビタキにまた叱られてしまいます。
先日、自宅で窓に背を向けて仕事をしておりましたら、背後に「バン!」という音がして驚いて振り返ると、窓の近くの枝にキビタキがとまって窓をにらみつけています。窓にぶつかったのでは、と心配して駆け寄る私の目の前で、キビタキが再び窓硝子に突進します。「バン!」
窓硝子に映った自分自身に向かって、「なんて強いヤツなんだ!」とでも言いたげに、何度も攻撃をしかけるキビタキに向かって、私が窓を開けて仲裁に入らなかったなら、しまいにはキビタキとうちの窓硝子の両方に傷がついてしまったことでしょう。
キビタキは、やはり気が強い鳥です。しかし、それは強いオスである証拠とも言えましょう。彼(今年の自宅付近のキビタキ)は、それは本当に素晴らしい声で、今まで聞いた中で一番の美声です。特に自宅付近はガーデンと違い、あまりキビタキがいないため縄張りを独占し、「鳥取」や「たこ焼き」の味気ない連呼をせず、あくまで優雅で震えるような余韻を残して、余裕のある鳴き方をします。
カラ類は、ただいま営巣真っ盛りです。自宅もガーデンも、巣箱は入居済みで、自宅のリビング窓の上の外壁に掛けた巣箱にはヒガラ夫婦が、東側にはいつものシジュウカラ夫婦が、そしてどうやら西側にはヤマガラ夫婦が、営巣しております。
ヒガラは虫をせっせと運び、夫婦ともに羽を振るわせて、巣箱の中に交替で入ります。まだヒナの声はあまり聞こえませんが、そのうち大きな声がするようになるでしょう。
巣に入るときは、種ごとに特徴のある鳴き方をします。シジュウカラは「ピーツ、ピーツ、ピーツ」と繰り返し、十数回ほど鳴いて入るパターンです。毎年聞き慣れているので、私はこの声を聞くと「(これから巣に)入るよ、入るよ」と私には聞こえます。
ヒガラは早口の高い声で「チツピー、チツピー、チツピー」と「入るよ」コールをします。なぜこのようなコールするのかはよくわかりませんが、巣の中のヒナたちに心構えを促す、あるいはヘビなどの捕食者が近くにいないかの確認、また、つがいと巣の中でぶつからないように入る前に予告する、などが考えられます。
ところで、少し困った鳥、ガビチョウ(画眉鳥)についても紹介しておきましょう。
ガビチョウはもともと台湾や中国大陸で、美声の飼い鳥として人気があり、ペット業者が日本国内の山林に放したものが野生化したと言われ、全国に生息域を広げております。特定外来生物として指定されており「日本の侵略的外来種ワースト100選」として有名です。
軽井沢にも進出し、今や通年住み着いています。私どもの自宅の庭やガーデンも気に入られてしまったようで、通年でほぼ毎日来ております。
ガビチョウ以外にも、私どもの自宅の庭は、引っ越してから1年間にベニマシコも含めて45種類を超える野鳥が訪れました。離山という希有のすばらしい自然を有する山林や別荘地の森、美しい水場などが近くにあり、近くの自家菜園の畑も農薬を使わないため、軽井沢の利便性の良い場所にありながらも、野鳥にとっては非常に魅力的なスポットとなっているようです。
とはいえ、私どもはかわいらしい小鳥たちを駆逐してしまう彼らの存在には、少々頭を悩ませており、パートナーは「ガビ、静かにしなさい!」とガビチョウに向かって注意しておりますが、当の鳥は「かわいいね!」とでも言われた認識なのか、喜んでさらに大声で歌を披露します・・・。
何年も前に、八ヶ岳の飲食店で、近くに座っている年配の夫婦に鳥の話題を話しかけられました。「リジチョウ(理事長)」と鳴く、目の縁の白い鳥がいて、古老に聞いても「このような鳥は見たことがない」と言われる、と、その夫婦は話しました。私どもが鳥に詳しいと思ったのか、いろいろ聞かれましたが、私どもも何の鳥か分からず答えられないままでした。それから何年かして、軽井沢でもガビチョウを見るようになり、やっとあのときの八ヶ岳で話題になった謎の鳥の正体がわかりました。
ガビチョウは、昔から中国絵画にも登場し、台湾の故宮博物院にある、明代初期の宮廷画家 邊文進「三友百禽図」にも描かれております。山に集う百の鳥を描いたこの絵は、めでたい絵柄として掛け軸になっており、パートナーの実家にあったものを我が家に持ち帰り、冬の間は床の間に掛けて楽しんでおります。その掛け軸を見ると、さまざまな鳥に混ざって、まさにあの「画眉鳥」殿がいます。
ガビチョウは、こうして我が家の床の間にまで進出しておりますが、我が家の庭にも朝4時から(!)賑やかに、まるで拡声器のような大音響で、一人歌合戦を繰り広げます。
ガビチョウはツグミほどの大きさで、物真似鳥で、気に入った鳥の声をどんどん自分のレパートリーに組み入れて、自分流の歌を作っていきます。さえずりのレパートリーの豊かさが、オスのもてる条件のようです。しかし、レパートリーに入れられた鳥はさぞや迷惑でしょう。なぜなら、さえずりという縄張り宣言の大事な印を、ガビチョウの強烈な大声でかき消されたり真似されたり、攪乱されることになるからです。
まず私が判別できるだけでも、基本の「タリホー」(リジチョウ?)から始まり、キビタキの「トットリー」、ヤマガラの「ツンツンピー」、ウグイスの「ホケキョ」「ケキョケキョケキョ(谷渡り)」 などを続け様に歌い続けます。その歌のさなかに遠くでカッコウが「カッコー」と鳴いたとたん、ガビチョウは一瞬鳴き止み、すぐに小声で「カッコーカッコー」と2,3回練習し、うまく真似できる自信をつけたのか、すぐに今度はレパートリーに「カッコー」もくわえて大声で披露します。本当になんでも気に入ったらすぐに真似します。そして物真似の合間に、濁った低い地声で「あ”ー、あ”ー」とマイクテストのようなことをします。
朝の4時から延々30分近く、我が家の庭の木で大音響の独唱を聞かされる私どもは、どうにか早く終わって欲しいと寝りの中で祈るばかりです。夜遅いことの多い私どもにとっては、またもや睡眠不足に悩まされます。
この鳥は、ツグミ科、特にクロツグミと同じような食性、習性であるため、クロツグミの生態にも影響があると、クロツグミの研究者であり『鳥のおもしろ私生活』の著者の石塚徹氏から何年か前に伺いました。石塚氏によればクロツグミも、さえずりのレパートリーの豊かさでオスがメスに選ばれる鳥だそうです。
私どもの自宅の庭には、毎年冬鳥のクロツグミやシロハラが来ては、玄関の砂利を引っかき回して餌探しをしていたものですが、ここ数年ガビが騒ぐようになってからはツグミのいたずらに悩むことがなくなり、たいへん寂しい思いをしております。
個体数が減少しているかどうかまではわかりませんが、ガーデン付近でも夕暮れ恒例の、ツグミの美しい物真似合戦が聞けなくなり、代わりにガビチョウの声一色になってしまったように思います。
軽井沢の町鳥である「アカハラ」もツグミの仲間で、避暑地軽井沢の夏を代表する夏鳥です。通年軽井沢に居着いているガビチョウによって、アカハラも悪影響を受けなければ良いのですが。すべての鳥が、のびのびと楽しく生きる姿を見たいとガーデンを作る私どもですが、外来種の問題は悩ましいところです。
人間の勝手で異国の地に無理矢理連れてこられ、あげくには気候風土の異なる自然の中に放たれ、それでも懸命に明るく生きるガビチョウに、私たちはたくましさを見習うべきでしょうか・・・。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第36話 「鳥の歌合戦」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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