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■第33話 「庭木の役目」 2012年5月24日
庭木は、あくまで建物と調和することが求められます。 昔から日本では庭の木に対して「役木(やくぼく)」という独特な考え方があります。有名な「門冠りの松(もんかぶりのまつ)」、「灯障りの木(ひざわりのき)」など、それぞれの役割と適した樹木の種類、形状などが、地域ごとに暗黙知として継承され、洗練された形式美と実用的な意味をもって、現代にも(多少は)残っています。
「日本家屋と日本庭園」というおなじみのパターンの他に、「洋館に英国風庭園」という場合でも、よく見れば似たような形式をとっていることがあります。日本庭園の「門冠りの松」に対しては「アーチに絡ませたバラのゲート」が、「正真木(しょうしんぼく・しょうしんぎ)」に対しては「シンボルツリー」が、それぞれ該当するでしょう。
樹種の選択においては、落葉樹と常緑樹との組み合わせ、目隠しと日当たりのバランス、あるいは緑のカーテンや果樹の木などの実利的な観点などから選ぶ場合もあるでしょう。
一見古くさいと思われがちな庭の形式には、実は合理的な意味があり、建物(家屋)と庭のバランスだけではなく、周囲の家や道路、地域などの環境との調和を図るための知恵が隠されています。建物から近いところには、細やかで風情のある木、南側には夏は茂り、冬は葉を落とす落葉樹、北側には風を遮る常緑樹、西側には日差しを適度に遮る樹種や、紅葉が夕日に映えるカエデ、東には早春の風に乗って良い香りを漂わせる梅などの花の美しい木、といった季節感を味わい、快適に住まうための知恵が込められています。
しかし、時には植物が好きで、後先考えずにひたすら植え続け、しまいには歩くスペースもなくなってしまった庭もあります。実は、かつての私どもの自宅の庭はそうでした。これはこれで、家の住人が満足であれば、楽しい庭かもしれません。
ただし、根を大きく張る植物は、将来にわたる建物との兼ね合いを考え、建築物から離して植えるべきでしょうし、ケヤキなどの大木は普通の庭には大きすぎて無理があります。かといって、好きだからという理由で植えて、そのあげく枝葉を詰めて大木を不格好なミニチュアにしてしまうのは、木がかわいそうです。
私どもが最初のうち、あれもこれも植えたがるので、植木屋さんに「木というものは、大きくなるんですよ」と控えめに注意されたことがあります。本当にありがたいアドバイスであったことは、それから2,3年も経たないうちに身にしみました。
それにしても、私ども(特にパートナー)は夢中になるとブレーキが壊れて、ほどほどを知りませんので、その時のさりげない植木屋さんの一言をブレーキ役として、パートナーも私も、お互いにその言葉を投げかけております。「木というものは、大きくなるんですよ。」
こうした山ほどの失敗を乗り越えて、今のソフィアート・ガーデンがありますので、失敗から学ぶという視点も無駄ではないと悔し紛れに言っておきましょう。
軽井沢には、こうした大きくなる木の代表として「ハルニレ(春楡)」があります。ケヤキの仲間です。英米のエルム(elm)に相当します。立派な大木になりますので、たくさんの伝説や逸話を世界中に残しております。ハルニレ伝説はアイヌ神話や北欧神話にもあります。
ニレの仲間としては、淡路や神戸に行ったとき、アキニレをあちらこちらで見かけました。アキニレはそれほどの大木にはならないようで、ハルニレとかなり違う印象を受けました。
その昔、アメリカ新大陸に着いたイギリス人たちは、ハルニレがあるところは水が豊富な肥沃地であることから「町を築くときには、ハルニレのある場所を選ぶ目印にするとよい」とインディアンから教えられたという話があります。インディアンは正直ですばらしい洞察に満ちたアドバイスをしたと思います。その正直が損か得か、ということは別の観点から考えなければいけませんが・・・。
ソフィアート・ガーデンとその周囲には、ハルニレの大木が何本もあります。とくに南東の一番低いところに、25メートルもの大きく広がる老木があります。また南側に隣接する林には、武者立ちの巨大なハルニレがそびえており、そこでエナガの夫婦が営巣している時に、悲しい事件がありました。(第18話「巣の危機」)
ガーデンだけでなく、軽井沢の肥沃な土地(川沿いにも)には、この大木が至るところに自生しております。ハルニレはケヤキ同様に芽吹きの遅い木で、今はまだ、やっと枝先の葉が見えるかどうか、という状態です。
こうして下々の小さい木々や野草に十分な初夏の光を浴びさせたうえで、王者はゆうゆうと最後に葉を茂らせます。そして、すぐに白い種をまき散らします。ちょうどウバユリの種を小型にしたような、ポテトチップスのように薄い平たい膜に包まれた種です。
こうして、ハルニレは意外な優しさを見せながら生長し、周りの木を圧倒するような大木になります。
家具の材としても机や椅子などに使われます。日本では材としてケヤキの方が格上の扱いですが、大木ですので大きな材がとれることを生かして木工製品に活かされることもあります。ガーデンにもハルニレ材の執務机がありますが、すっきりとして固く強く、いい材だと思います。
ハルニレが最後に葉を茂らせますと、ガーデンは本格的な緑陰モードになり、薄暗く感じるほどの大きな木陰を提供します。夏に小屋の工事をした際には、工事関係者の人たちは昼食のあと車の中で、それぞれがお昼寝をしていますが、こうしたハルニレの木陰はまさに、夏のオアシスになります。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第33話 「庭木の役目」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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