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■第40話 「托卵(たくらん)」 2012年6月4日
軽井沢もだんだんと夏の空に近づいてきました。青空にカッコウの声が響きます。そしてホトトギスも「キョッキョッ、キョキョキョキョッ!」と独特のリズムで鳴き続けます。夏のソフィアート・ガーデンでは、朝から夕方遅くまで一日中ホトトギスが鳴き続け、あまり考え事をしていない時の頭の中には、この鳴き声が常にこだましている状態になります。
こうした夏鳥の声を聞くと、さわやかな気持ちがする人が多いと思うのですが、私は少し複雑です。
カッコウやホトトギスは自分で子育てせず、托卵ということをします。ほかの鳥の巣に、自分の卵を生みつけ、その巣の主に育てさせるわけです。カッコウやホトトギスのヒナは卵から孵るのが早いため巣の中で真っ先に孵り、もとからいる卵やヒナを巣の下に蹴散らしてしまうとか。
親は自分の卵やヒナを、托卵されたカッコウやホトトギスに捨てられながらも気がつかないのか、寄生主のヒナを懸命に育てます。書籍で、托卵されたキビタキが自分よりはるかに大きくなったカッコウのヒナに背伸びをしながら虫を与える写真を見たとき、言いようのない衝撃をうけました。
こうしたカッコウに寄生される鳥は変化していくようです。たとえば一時期はオナガに托卵することがあったようですが、だんだんオナガが警戒するようになったと聞きます。オナガはカラスの仲間で頭が良いでしょうし、普段仲間同士で協力するなど、社会性がある鳥ですので、迷惑なカッコウの托卵を警戒することを仲間同士で情報交換したり学習するのかもしれません。
カッコウやホトトギスも、他の鳥に卵を托さざるを得ない事情があるのでしょうが、そういう種として生まれついたとはいえ、因果なものです。
実はシジュウカラやヤマガラなどのカラ類も、こうしたケースに遭遇することがあると言われております。
あるサイトに、国立科学博物館研究官の濱尾章二氏による講演内容で、ヤマガラの巣にシジュウカラが間違えて卵を生んだ話が報告されています。これはホトトギスやカッコウのような托卵とは厳密には違いますが、他の種の巣に卵を生む、という意味で「托卵」としてとらえることもできます。
その報告を見て、私どもはやっぱり、と思い当たることがありました。実は以前に、そうした事情を想像せざるを得ない体験をしていたからです。
本日のソフィアート・ガーデン物語の主人公は、カラ類の托卵のことを知るきっかけとなった、ある一羽のヤマガラの話をしたいと思います。名前を「タク」と名付けたこのヤマガラ、名前の由来は「托卵」の「托」をとって、というきわめてストレートな命名ですが、我が家では「タクちゃん」としてお客さんたちにも有名な鳥です。タクを見たり、タクのエピソードを聞いた知人たちは、会うと「タクちゃんは元気ですか?」と私どもに聞いてくるぐらい、ある意味人気者で強い印象を残すヤマガラでした。
ある初夏の日のことでした。この季節は、巣立ちヒナたちが団体で我が家の庭ににぎやかにやってくることが多く、その日も、まだ尾羽も短く嘴も全体の色も薄いシジュウカラのヒナたちが、わいわいがやがやと大きなマユミの木の枝で騒いでいました。
一羽が水場にくれば、私も私も、と次々と入り、他の一羽が葉っぱにぶら下がって虫探しをすれば、すぐにみんなが真似して、大賑わいです。
シジュウカラたちは、何かあると「キチキチキチ・・・」という警戒音を発しますが、なぜか一羽だけ「ニジニジニジ・・・」という変わった鳴き方をしています。
そして色が他のシジュウカラヒナたちと違って、体は小さいのですが、よく見るとどうやらヤマガラです。この時期は冬と違い混群はないはずですが、他のシジュウカラたちに混じって、まるで兄弟のように一緒に行動しています。
その「中途半端なシジュウカラのようなヤマガラ」は皆と同じようになろうと必死にがんばります。でも悲しいかな少し仲間はずれにされているような印象も受けます。やはり、みんなと鳴き方や羽毛の色が違うからでしょうか。
三々五々、シジュウカラの集団は飛び去っていきましたが、そのヤマガラ一羽だけぽつんと取り残された感じで庭に残りました。なぜ自分は兄弟たちのように「キチキチキチ・・・」が言えないのだろうという雰囲気で、一羽でこっそり鳴き方の練習をしています。「ニジニジニジ・・・」
枝の葉陰で、ヤマガラなのにシジュウカラのような鳴き方の練習を繰り返すそのヒナの様子を見ると、なんだか応援したくなり、私は「タク」と名付けたそのヤマガラが庭に来ると、自分の用事をストップして、急いで庭に出て「タクちゃん」と呼びかけて応援するようになりました。
タクがいつもの葉陰で鳴き声の自主トレをすれば、いっしょに真似しました。「ニジニジニジ・・・」とタクが鳴けば私も真似して「ニジニジニジ・・・」、タクが「ニーニーニー」と鳴けば私も「ニーニーニー」。
タクは、変な人間(私:スタッフMのことです)が真似するのを嫌がらず、そのうち私のことを、自分の仲間と認識したのか、庭に遊びに来ると窓に向って室内の私どもが窓から顔を出すまで呼び続けるのでした。
タクが庭に登場するときは、とても賑やかです。「ビビビビビビ!」と余りに騒がしいので、近所の人が何事が起こったのかと驚いて振り向いたぐらいです。私には「来たよ!来たよ!来たよ!」と聞こえます。朝は「ビビ!」と窓の外から鳴いて起こしに来ます。少しでも気に入らないことがあると「ビビビ」の連発で、タクが騒ぐと窓を閉め切っていてもすぐに分かります。
これは、シジュウカラのヒナと一緒に育てられたため、特別に自己主張の強いヤマガラになったのだろうと想像しています。先の濱尾氏による講演の報告によれば、ヤマガラに托卵されたシジュウカラは、あまりに餌をねだるので、他のヤマガラたちの分も餌を取ってしまい寡占状態になる、ということですので、逆にタクの場合は周りがシジュウカラだらけの環境で育つには、並の自己主張では生きていけなかったに違いありません。こうした騒がしさも、タクが托卵で育ったのではないかと思わせる一つの根拠となっています。
そしてヤマガラは、人懐っこく手に乗ることも多いのですが、タクはヤマガラにしては怖がりで(シジュウカラ同様)手にはほとんど乗ることはありませんでした。室内にいる私どもを大声で呼ぶ一方で、こちらに用事がないときは、私どもが「タクちゃん」と声をかけても、くるりと背中を向けて「今ぼくは忙しいんだ」という態度で私どもを無視します。マイペースでおもしろいヤマガラです。行動の端々に、ヤマガラよりシジュウカラ的な要素が見られます。
以前、庭にモズが巣をかけたときに、タクがモズに襲われないか心配だったのですが、さすがにそれはありませんでした。しかし、あまりにタクが騒いでうるさいので、普通はカラ類を無視するモズもタクの煩さに業を煮やし、「モズの高鳴き」 の「キチキチキチ」で威嚇してタクを追い払い、モズの営巣中はタクが我が家の庭に近寄ることはできませんでした。
それでも、タクは我が家の庭をお気に入りの場所として何年もの間、遊びに来ました。やがてペアのヤマガラも連れてくるようになり、もはや「中途半端なシジュウカラ」ではなく「立派なヤマガラ」としてのアイデンティティを持つ成鳥になりました。
大人になってからは「ビビビビ」と騒がしく鳴くことも少なくなりました。居間の前のエゴノキで「タクの枝」と私どもの呼ぶお気に入りの横枝に止まり、こちらに背を向けて余裕があるように見える姿からは、以前の小さくて騒がしいタクの面影はありませんでしたが、たまに騒いでいる声を聞けば、すぐにタクの声であることがわかりました。
あれから何年も経ち、森に還ってしまったタクですが、今でも私どもの庭には、タクとよく似た騒がしいヤマガラのジュニアたちが毎年賑やかに訪れてくれます。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第40話 「托卵(たくらん)」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
メモ(本文とは直接の関係はありません)
次の第41話は、6月11日(月)になります。
弊社代表による不定期連載「研修雑感」のページを設けました。
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です。
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