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■第35話 「初夏の恵み」 2012年5月28日
遅い春が初夏に変わり、いっきに草が伸びてきました。あちらこちらでタンポポの綿毛がふわふわと遊泳しています。ホトトギスがガーデンに隣接する森にやってくる日も近いようです。
この時期、軽井沢の草は爆発的に大きくなります。春が遅く秋が早いため、生育期間は短いのですが、その分生長を急くのか「見ている間」に大きくなるような気がします。梅雨を迎える前に、太陽の日差しをいっぱい浴びて、ぐんぐんと伸びる初夏の草には、いかにも栄養が詰まっていそうな気がします。
ガーデンの日陰に並べてある椎茸原木からは、春の椎茸がたくさん取れました。この時期はもう収穫は終わりになります。再び秋のシーズンには、椎茸の丸い頭がひょっこり出てくるでしょう。収穫した椎茸はよく水洗いし、薪ストーブの上で完全乾燥させて、長期保存できるようにしました。自家製の干し椎茸を保管しておくと、スーパーなどで買わなくても通年で便利に使えます。
山菜の種類や呼び名は地方によって変わるようで、調べてもさまざまに表記が異なり、先生を持たない独学の私としては安全第一に、確信が持てなければ食べない、ということになります。
しかし、見るからに野菜のような色と艶で、野生の勘が「おいしそう」と呼んでいるものもあります。そういう草は、ちぎって香りを嗅ぐとたいていミツバのようないかにも食欲の湧く心地よい香りがします。実際に調べると、山菜として有名であったりします。
食べられることがわかっていても、私は一つ摘むたびに、いちいち香りを確かめながら、収穫していきます。畑と違って自然の中にありますので、すぐ隣には毒草があることもたびたびです。慎重に、でも楽しんで摘み取ります。もし、少しでも不快な臭いがあれば、知っている種類でも捨てます。
正式名称はわかりませんが、ミズナと呼ばれるものが、これからの季節はガーデンと自宅庭には雑草のように生えてきます。葉をむしり取って茎だけにして、炒め物に使うとおいしく、特にごま油などで炒めるとなかなか美味です。でもあまりにたくさん生えるため踏んづけて歩いてしまい、そのうち食べたいとは思えなくなってきます。
ヤマトキホコリも、もう少し増やしてから食べてみようと思います。
大きく育ったウドも収穫しましたので、今年最後のウドを味わおうと思います。
フキもそろそろ一部収穫です。根元の赤いものと青いものがあります。穴の開いたものと穴のないものもあります。ヤマブキは穴がない比較的細身の茎であることが多いです。
山菜だけでなく、山野草も初夏へ衣替えです。カキドオシの花に似たトキワハゼ(常磐爆)も地面を覆い始めました。もしかしたらムラサキサギゴケ(紫鷺苔)かもしれません。
自生するクリンソウ(九輪草)も赤い鮮やかな花を咲かせています。サクラソウ科の中では最も大きく、大株に育ったものは、その高さは30cm以上にもなります。すらりと伸びた茎に幾重にも咲く鮮やかな花は、風が吹いてもなかなか倒れず、群生すると目を引きます。
クリンソウは紫がかったピンクのものや、金赤に近い色のものなど色合いが違うものがあります。自生植物とは思えない、まるで買って植えた園芸種のような華やかさです。場所が気に入ると、どんどん増えます。
ルリソウもこれからの季節に花を咲かせます。瑠璃色のかわいい小花はたいへん美しく印象的です。この花は軽井沢では離山近辺に多く自生しており、雲場池の散歩道に群生しているのを見かけます。
不思議な立ち姿が目を引くテンナンショウ(天南星)の仲間もにょきっと山路に立っております。またの名をマムシグサとも呼ばれます。
カルイザワテンナンショウという当地固有のものもあります。
ガーデンのエゴノキの蕾が次々と出てきました。バラもようやく蕾が出てきました。これらの花が軽井沢で咲くのは梅雨の頃でしょうか。
クレマチスモンタナは、次々と開花して賑やかです。自宅ではメイリーン(ピンク)とスノーフレーク(白)、その他いくつかの種類を絡めて植えています。
モンタナ種は旧枝咲き、といって前年に伸びた枝に花を咲かせるため、剪定は枯れ枝のみ軽く行い、伸び放題にして絡めております。(バラと絡めてしまったことによる失敗談は、
第23話「棘と蔓」
で紹介しています)
クレマチスモンタナのメイリーンは銅葉も美しく、甘いバニラエッセンスのような芳香が強く、開花の間は、お菓子の家のような良い香りに包まれます。私が最も気に入っているクレマチスです。
虫も成長するために忙しく、バラの葉をむしゃむしゃと食べていますが、人が通る場所でなければ、虫は大目に見ています。軽井沢の場合は、イラガなどの猛毒の虫がいないため、そのような悠長なことを言っていますが、毒のある虫であれば放置はしません。
この時期はアカスジキンカメムシ(赤筋金龜虫)の幼虫をよく見かけます。日本で最も美しいカメムシとも言われ、カメムシとはいえ成虫はまるで宝石のようです。
アカスジキンカメムシの5齢幼虫は白黒の模様で特徴があり、ヤマボウシの葉などに隠れてじっとしています。5齢幼虫のまま冬眠して、これからの時期は美しい成虫に羽化します。
また、トンボエダシャク(蜻蛉枝尺)の幼虫もよく目を引く派手な出で立ちです。成虫は蛾ですが蝶やトンボのようでもあり、美しい蛾として知られています。
蛾などは成長すると一切の飲食はせず、繁殖だけで命を終えるものもありますが、その代わり、幼虫は食欲のかたまりで、とにかく初夏のおいしい葉をむしゃむしゃ食べます。彼らも皆、懸命に生きています。
初夏の恵みは、大地の栄養を緑の中にしっかりと蓄え、人間にも、虫にも、そしてその虫を食べる鳥たちにも、平等に豊かなおいしさを提供してくれます。初夏の陽光とさわやかな風、そして時々の激しい雷雨によって育った緑の力は、やがて燃えさかる真夏の季節に向けて勢いと元気を、すべての生きものに恵みとして与えてくれます。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第35話 「初夏の恵み」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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