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■第46話 「梅雨の恵み −梅仕事−」 2012年6月18日
梅雨は「梅」「雨」と書きます。やはり梅雨と梅は切っても切れない関係なのでしょうか。ウメは、薫り高く美しい花も良し、梅雨時期の実も良しの素晴らしい木です。
この時期の梅加工は梅雨の恵みを味わう手仕事の代表格と言えるでしょう。
6月初旬には信州産のごく小さい小梅が出て、すぐに近県の小梅、そして青梅、最後に完熟梅が出回ります。今は和歌山産の南高梅の完熟が店頭に並んでいます。
青梅は毎年「梅シロップ」を作るために使います。青梅と氷砂糖だけで、10日ほどで梅自体の水分が溶け出て梅のさわやかな酸味と香りがいっぱいのシロップになります。作るのは至極簡単な上、炭酸水と混ぜれば梅サイダーとして夏のさわやかな飲み物になり、また紅茶やミントティーなどに梅の香り満載の甘いシロップを混ぜると、お茶の時間の幸せなお供になります。
梅シロップを作った残りの青梅は、たっぷり氷砂糖を含んでいますので、取り出して煮詰めれば梅ジャムになります。黄色く熟した梅ジャムは黄金の色と梅の完熟の香りがすばらしいのですが、梅シロップで残った梅のジャムは茶色系で色と香りは少し劣ります。副産物としてはまずまずのものです。
また、同様の梅シロップの残りの青梅を酢に漬け込めば、ラッキョウのような甘いピクルスになり、カレーライスに合います。味噌や醤油に漬け込んでも、味噌、醤油の濃い味が梅の酸味と甘さになじんで、それだけでご飯のお供になります。
そして、最近の何年かは「梅エキス」作りにも手を出しています。梅エキスは、根性(当地では根性を意味する「ずく」という方言があるそうです)、という高いハードルを乗り越えなければできません。まずひたすら青梅をセラミックのすりおろし器ですりおろす作業が大変です。そしてその汁を木綿晒しの布袋で濾し、陶器の鍋で煮詰めてほんの一握りのエキスになるまで長時間を要します。
丁寧に時間をかけて作った梅エキスは強い殺菌作用をもちますので、決して腐敗せず、無期限で常温保存できます。梅の成分が塩や砂糖なしで凝縮されており、急な腹痛や食あたり、気分が優れない、などのさまざまな病に効くと言われる、民間に伝わる万能薬として重宝します。
実はこれが、良薬口に「甘し」で、青梅以外の成分は何一つ入っていないというのに、強烈な酸味のほかに仄かな甘みがあります。抹茶のような香りもします。苦労を重ねた結果、ホンの小瓶の半分の量になるかどうかの貴重品です。この、黒い密のようなエキスを後生大事にして、体調万全で仕事に臨みたいときや、軽い風邪気味の時には、指先程度の量を嘗めるだけで、なんだか効いたような気がしますし、実際に効きます。
このたび、たいへんな労力を必要とする梅エキスを作る暇と根性のあまり無い私でも、簡単にできる方法を考えました。根性がない分、知恵を出します。
私は子供の頃から、らくに、能率良く何かを成し遂げるために知恵を出すことに喜びを覚えました。まるで某自動車会社の方々のように「カイゼン」が好きです。困難を前にしたとき、私の頭はフル回転して、力や根性を使わないで楽に要領良く済ませる方法を考えます。
しかし(パートナーと親などの身内以外には)誰にも披露する機会がないので、世の中の困っている人の役には立たず、もっぱら自分だけに役立つのみです。もし梅エキス作りで困り果てている人がたまたまこの文章にたどり着いて少しでも苦労が減れば幸いです。
それは、こんな方法です・・・。
まず、小梅でも中梅でも良いので新鮮な「青梅」を用意します。2キログラムの青梅から最終的に50ミリリットルのエキスができるかどうかですが、あまり多いと作ることに疲れますので、私は2キログラムを上限にしております。
青梅を流水で丁寧に洗ってしばらく漬け、そして完全に乾かします。ヘタの部分を爪楊枝などで外します(触れるだけで簡単に取れます)。
清潔な木のまな板と、梅の直径より少し低めの「高台」のある、丈夫なお茶碗を用意します。 ここがポイントです。
まな板に梅を載せ、お茶碗の「高台」を梅にかぶせてお茶碗をまな板に両手で押し付ければ「ブチッ!」という音と感触とともに梅の実が割れて、果肉と種が簡単に外れます。巷には「梅割り機」なる機械もありますが、それを買わずとも、この方法ならすべての家庭にあるまな板とお茶碗で可能ですし早いのです。あとは工夫してスピーディに全ての実の種を外します。青梅そのものは生食すると毒がありますので、必ず熱や酒、砂糖で加工して食します。また種も有毒ですので、確実に取り除き果肉だけ用います。
チタンの歯などの錆びない素材のミキシングできる機械(ミキサーやフードプロセッサーなど)に上記の果肉を入れて、何度かスイッチオンオフを繰り返し、すりおろします。水分がないので最初は難しいのですが、もちろん水は入れません。何度も果肉をミキサーから出し入れするうちに上下が混ざり、最終的にはどろどろになります。
青梅は強い酸性ですので、ミキサーの歯が錆びることもあるようです。私は15年以上使っている古いチタン歯のミキサーなので気にしませんが、高価なものでしたら使いません。幸い、終わったらすぐにメンテナンスをしているためか、錆びや痛みは大丈夫です。
青梅エキスの基になる果肉のどろどろを作るまでに1日5時間近く2日ほど掛かっていた工程が、上記方法を採用することにより1時間ほどでできるようになりました。つまり10時間が1時間で済むので十分の一の時間に作業効率がアップしました。しかも指先をすりおろすような怪我もせず、長時間の精神的肉体的な苦痛から解放されます。
ここから先の工程、すなわち木綿晒しの布袋でどろどろから汁を濾し絞り、その汁をエキスになるまで煮詰める作業は、残念ながら時短ができませんので3,4時間を用意します。ひたすら陶器や耐熱ガラスなどの耐酸性の鍋で弱火で煮詰めて行きます。だいたい2キロの梅で3時間半かかります。
本でも読みながら進めればよいので、金属鍋を使わないことと焦がさないことだけ注意すれば、エキスを煮詰めるのは楽しい作業です。残った絞り糟はグラニュー糖を混ぜて煮詰めたり、グラニュー糖とお酒で漬け込めば、カレーの付け合せなどにチャツネのように使えます。
工夫をすることで、信州の方言で言えば「ずくなし(根性なし)」を自覚する私も、ずくのかたまりのような苦行の上にできる梅エキスを楽々と作ることができます。
そしていよいよ、梅仕事のクライマックスである梅干しです。実は梅干しは、作業自体は簡単ですが「土用干しの晴天に恵まれなければならない」という自然面での難関があります。夏場の霧の多い軽井沢では、ふっくらとやわらかくおいしい梅干し作りに不可欠な「晴天連続3日続きの土用干し」がたいへん難しく、特にガーデンは森の中で日差しが遮られることが多いため他地域より難しいのです。もし幸い強烈な日差しに恵まれても、そういう日に限って突然の雷雨などの不安定な天候になり、1000メートルの高原は気が抜けません。
この週末は薫り高い南高梅の完熟を梅干の前準備として塩漬けにしました。梅の量の20%の塩で、1キログラムに対し200グラムの塩をまぶしておけば、そのうち梅から水分が塩によって引き出され、梅酢という薫り高い酢に、梅が浸かるようになります。
これで梅雨明けの土用まで放置しておけばよいので、梅干のほうは作業はたいしたことはありません。天気の読みと、晴天に自宅にいられて土用干しできる時間があるかどうかだけの問題です。
梅雨に飽きた頃に「梅雨が明けたのではないか」と直感で分かるような猛暑がいきなり続きます。その時を狙ってすかさず土用干しを済ませてしまわないと、気象庁の梅雨明け宣言を待っていたのでは土用干しが困難になります。毎年そのタイミングを逃してしまい、「しまった!」と思うのが常ですので、今年こそは人間の野生の勘に頼って行動し、(軽井沢での土用干しにとってはあてにならない)気象庁の梅雨明け宣言を待つようなことはしない、と心に誓っております。
私は梅干しを塩漬けするときに出てくる梅酢も、サラダや即席漬けの大事な万能酢として使います。スーパーなどで梅酢が販売されているのを見ると、その高価なことに驚きます。確かに調味料として、梅の香りと成分がたっぷり入った梅酢は良いものなのでしょう。古くなって梅の香りの薄くなった梅酢は、強烈な酸性がアルカリの汚れ落とし(カルシウム分などの水垢除去)などにも使えます。こうした保存食のための副産物は、捨てる部分がありません。
こうして完熟梅の良い香りに包まれて一仕事すませた今は、梅雨明けを待つのみです。梅雨明けが待ち遠しいなどと言えば、暑いのが好きだと誤解をうけそうですが、土用干しのための「火(お日様)」が待ち遠しいだけなのです。私は、暑さは寒さより苦手で、実のところ夏はあまり好きではありません。
梅雨の時期に梅の保存食をこしらえるとき、日本の食文化のすばらしさにいつも感心します。梅雨は、こうした日本の「 知恵」と「技」の恵みを実感することのできる季節として、私は暑い夏よりも好きなのです。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
メモ
このページを「青梅の割り方」という検索キーワードで参照するケースが増えています。そこで、上記のお茶碗とまな板を用いた割り方は、信州伊那谷産の「竜峡小梅」という小梅でしか試したことがない、ということを補足しておきます。他の小梅や中梅では堅さや大きさが上記方法では難しいかもしれません。もっとも、割りやすい(と思う)竜峡小梅でも2kgほど続けていると、さすがに手のひらが疲れて痛くなってきます。このページを参考になさる皆様、どうぞ怪我をしないようにがんばってください。(2014年6月22日追記)
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