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ソフィアート・ガーデン物語
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■第20話 「春の恵み」 2012年5月7日
今年のゴールデンウイーク後半は、軽井沢も雷や突風、大雨など、巣作りで忙しい小鳥たちにとっては難儀なこともありましたが、その合間に穏やかに晴れて、ソフィアート・ガーデンの木々の間からは、南東の空に、大きく明るい満月も見えました。
この一週間で、すっかりガーデンの色が変わりました。枯れ葉と黒い土は、雨の降った翌朝には多くの野草ですっかり覆われてしまいます。
「自然」という秀逸な画家が、焦げ茶のカンバスに薄緑の絵筆をさらりと走らせ、いつの間にか早春、そして豊かな色彩の初夏へと季節が遷り、絵の具は緑の深みと厚みを増していきます。
落葉樹の枝を新緑のベールが包み、「ミツバツツジ(三葉躑躅)」の透き通るような紫が蜂たちを誘い、「アズマシャクナゲ(東あるいは吾妻石楠花)」は青みのある艶葉とよく似合う、これもまた青みがかった桃色の花を次々と開花させております。
木の葉と花、というのはとても色のコーディネートが上手です。樹種ごとに葉の色や艶、綿毛の有無や葉の厚みなどがさまざまに異なり、人間の目に見える光の反射である「色」も違って見えます。これからの季節に感心するのが、葉と花、そして樹肌の色との組み合わせの妙です。
自らを一番美しく見せる色の組み合わせを、木はよく知っていて「オオヤマザクラ(大山桜)」の暗い樹は桜色の花霞を引き立て、黄緑の新緑も春のやさしい青空によく映え、春の陽光の下、のどかで幸せな気分になります。
「キブシ(木五倍子)」
は、どの落葉樹もまだ花も葉もつけない、一見枯れた空間に、鮮やかな黄色の光の鎖を幾筋も垂らします。キブシが主役となる舞台はほんの一瞬であり、だからこそ新鮮です。やがて他の木々の新芽が展開し出すと、一年に一度の大舞台であるキブシの輝きも他の木々の中に埋没し、また地味な普段の姿に戻ります。
ところで、ソフィアート・ガーデンの地面は、ただいま大賑わいです。山野草が続々登場しています。
ガーデンには「山野草広場」と私どもが呼んでいる大切な野草の宝庫であるゾーンがあります。そこは軽井沢の天然のお花畑を彩る野の花として当地の誰でも知っている、しかし自生がだんだんと減っている愛すべき山野草がたくさん自生しております。
私どもの管理責任となる以前から、この地はずっと自然を愛する人達が大切にしてきた場所ですので、そのような自然の財産を私どもが責任を持って引き継いでおります。
春先に咲いた
「アズマイチゲ(東一華)」
の花も終わり、春のはかない夢を見せてくれたスプリング・エフェメラルは、落葉樹の葉の展開とともに、また来春まで跡形もなく消えてなくなります。
そして、
白い綿毛に包まれた「サクラソウ(桜草)」
が、桜色の美しい花を咲かせはじめております。
「ヒトリシズカ(一人静)」
も不思議な白い花を賑やかに咲かせ、「ミヤマエンレイソウ(深山延齢草)」も大きな葉と真っ白い花でひときわ目を引きます。
「ユキザサ(雪笹)」の群生
は蕾をあげ、やがて「フタリシズカ(二人静)」が芽吹いてきます。そろそろ「クリンソウ(九輪草)」のふっくらとした葉もあちらこちらに見えます。浅間石の石垣や薄暗い場所では、「ユキノシタ(雪の下)」の白く丸い葉が地面を這うように広がり、夏には線香花火のような繊細な白い花をつけるでしょう。
山野草は私どもにとって眼の栄養(恵み)ですが、山菜はこの時期の味覚として、野趣と滋養に富んだ恵みです。
ソフィアート・ガーデンのカラマツの伐採後に勝手に生えてくるたくさんの
タラノキ
もこの時期は大きな芽をつけ、1回だけポッキリと摘んで天ぷらにして味わいます。小さいものは残して、大きなものだけ楽しみます。私どもの夕食のメインディッシュとなるものです。
香りのすばらしいウドも、葉を天ぷらにして、白い毛のある太い茎は香味を楽しめるようシンプルに調理します。夏にはウンザリするほど茂るヨモギも、この季節の柔らかい若葉は天ぷらや草餅などでおいしいものです。
自生はしていないものの高原の風土にぴったりの
「ギョウジャ(行者)ニンニク」
は、町内で購入した苗を栽培しておりますが、宿根草ですので年々大きく育ち、この季節は上品な甘さとナツメグの香りのある山菜葉が楽しめます。
シンプルにさっと湯がいて酢味噌で食べると、こんなおいしいものはないと思います。産地が極めて限られておりますので一般に知られていないのですが、修験者(行者)の栄養源とも呼ばれる滋養とともに、最高の味。春の恵みとして、私どものささやかな贅沢です。
ぐるぐると渦巻く芽吹きを少量味わった
「コゴミ(クサソテツ)」
は、ガーデンの東側の湿潤な少し暗めの低地にたくさん自生しており、もう食べられるシーズンは過ぎてしまいましたが、美しい羊歯(シダ)の葉を広げ、これからは観賞植物として庭のアクセントになります。
あたりを歩くと、カキドオシ葉と紫の小花が、私に踏まれてハッカの芳香を漂わせます。これもカキドオシ茶にすれば、年中ミントティーが楽しめます。
午前中の日差しが程よく当たる適湿のゾーンには自生の「ミツバ(三つ葉)」がたくさん生え、香りの良いお吸い物の具を提供してくれます。卵との相性がいいので親子丼や卵とじにします。
「マユミ」の若葉もさっと湯通しして鰹節と醤油だけで、くせのないお浸しになります。もっともマユミの葉は山菜や食用としては有名ではありませんので、食べられることはあまり知られていません。ちなみに、マユミの赤い実は有毒ですので、万が一を考えて若葉も味わう程度にとどめます。
手籠を持ってソフィアート・ガーデンを一回りするだけで、籠が食材で満たされるこの時期は、野菜を買いに出かけなくても良いので助かります。なにしろ軽井沢のゴールデンウイークの混雑は恐ろしく、とてもメイン道路やスーパーに近寄る勇気は出ませんので・・・。
『ソフィアート・ガーデン物語』
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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