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ソフィアート・ガーデン物語
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■第18話 「巣の危機」 2012年5月3日
今回は前回に続き、野鳥の巣についての話です。
自然界の厳しさは、時に最も心待ちにしている「いのち」を危機にさらします。
野鳥たちは、飛ぶことによって危機から逃れることが出来ます。しかし卵や雛は、いちど親鳥が営巣すれば、その場から動くことはできません。
親鳥たちは営巣場所の選定にはとても気を配り、できるだけ良い条件で子育てするために必死です。無防備な卵や雛たちを抱え、心配がつきることがありません。
ある日のことです。自宅の庭でシジュウカラたちの妙な騒ぎが聞こえてきます。なんだろう、と外に出ると、私のほうに一羽のシジュウカラが飛んできて切羽詰まった低い声で「ジジジジ」と鳴きます。
この鳴き方を聞いて、とっさに「ヘビだ!」と思い当たり、急いでシジュウカラたちの騒ぐ方に行くと、案の定、そこには大きなアオダイショウがいました。
以前、庭に大きなアオダイショウがいたときにも、シジュウカラたちが同じ声で警戒していました。その声はまさしくヘビを表現する音で「シャーシャーシャー」のような、普段は全く出さない一種独特の不気味な鳴き声です。一度聞けばその音と意味する内容を忘れることはありません。
ここで話を先ほどのシジュウカラの騒ぎに戻しましょう。小道を隔てた隣家のニシキギの垣根に、キジバトが適当な巣を作って卵を何日も温めていたことは、すでに知っていました。
私が駆けつけたとき、私の目の高さにあるそのキジバトの巣には、親鳥はいませんでした。きっとお腹が空いて食事に出かけていたのでしょう。そして小枝を粗く組み合わせて作った巣には、アオダイショウがとぐろを巻き、卵はすでにありません。
シジュウカラたちは、その周りで独特な警戒音を出しています。私は棒を片手にヘビを追い払いましたが、今となってはどうしようもありません。後で戻ってきたキジバトの親鳥は、しばらくショックはあったようですが、また普段の生活に戻っていきました。
そして、ソフィアート・ガーデンでも巣をめぐる危機に立ち会うことになりました。
野鳥たちが営巣する初夏の時期、ガーデンの隣の森の大きなニレの木で、エナガの夫婦がカラスに体当たりしています。木は20メートル以上あるためよく見えませんが、どうやら雛をカラスが襲い、それを親鳥が防御しているようです。
エナガというのは、体長14センチ(そのうちしっぽが半分)、体重はわずか7グラムほど、というとても小さな野鳥であり、棒のついたあめ玉のような、まん丸の羽毛のかたまりのような体型に、かわいいおちょぼ口、とてもカラスにかなう生きものでは無いことは一目瞭然です。
しかし、自分たちが襲われる危険にもかまわず、カラスに体当たりする姿は見ていて苦しく、どうしようもないと分かっていてもそのままではいられません。
上空20メートルでの戦いの後、カラスは去って行きましたが、エナガの夫婦は、雛を探すかのように、壊された巣の周りを何度も何度も飛び回り、しばらくそばを離れません。やがて、かなり時間が経って、エナガの夫婦が静かに、しかし小鳥の元気さを取り戻して彼らの生活を始める姿を見て、心打たれるばかりでした。
こんな話ばかりでは気鬱になってしまいますが、最後にもうひとつ、巣箱の危機についての話です。
昨年、私どもはソフィアート・ガーデンの小屋のデッキに巣箱をつけました。慎重に選んだ場所で、目の前には、巣立った雛が安心して着地できる大きなヤマボウシがあり、デッキの深い軒が雨を遮り、カラスなどから見えず、まわりの木からもヘビが届かず、キツネなどの動物からも届かない場所です。さっそくシジュウカラの夫婦が営巣し、毎日懸命に、しかし楽しそうに虫を運ぶ親の姿を小屋から眺め、だんだん大きくなる雛の声を聞きながら毎日巣立ちを楽しみにしていました。
親鳥の運び出す
白いカプセル
がずいぶん大きくなり、小屋の窓から聞こえる雛たちの声も力強いものになって、もうすぐ巣立ち、というある日、お茶を煎れていると、あの親鳥の「ジジジジ」という、ただならぬ警戒音が耳を刺しました。
何があったかはとっさにわかりました。すぐにデッキに出ると、親鳥が巣箱のまわりを警戒しながら飛び、なんとか入ろうとしています。巣箱の中に向かって牽制する声を発します。私どもが息を詰めて巣箱をじっと見ていましたら、その中からアオダイショウが顔を出したのです。
アオダイショウに向かって「へびさん、へびさん、お願いです。どうかそこを出てください。せめて一羽だけでもそのままにしてあげてください」と私が静かに話しかけるのと時を同じくして、ヘビはこちらを見て小さな巣箱からスルスルと体を伸ばして素直に出てきました。
体長2メートル近い大きなアオダイショウです。お腹が大きいので、雛が飲み込まれたのが分かります。こうした行為はヘビにとっては、生きることそのものです。
ヘビの目には青空が映って、澄んだ輝きを放っており、生きるための殺生であることを物語っていました。普段、生きもののいのちを頂戴して生きている私が、何を言えるでしょうか。
ヘビはすぐに出て、壁を垂直に伝って地面に降りていきました。パートナーは大急ぎでヘビの近くまで駆けつけましたが、そこで何をしたところで、犠牲になった雛たちが生き返るわけではありません。私どもは、このヘビのいのちが雛の分まで全うされるのを願うことぐらいしかできません。
はじめは怒っていたパートナーも、悲しんでいた私も、そういうことを考えながら、やがて静かにヘビを見送った次第です。
シジュウカラの夫婦は、その日からしばらくは何度も巣の中を覗き、雛がいるかもしれないと確かめる姿を見るたびに、私どもは苦しい思いがしましたが、やがて少しずつ巣の中を覗く頻度が少なくなり、シジュウカラ夫婦がいつもの生活に戻って行く姿を見ることが出来ました。
しばらくして、ガーデンのカエデの木に掛けたもう一つの巣箱でもシジュウカラの営巣が見られました。たぶん、無事育ったことでしょう。
今度こそ、と今年は別の選定場所に巣箱をつけました。すでにガーデンの巣箱には大変仲の良いシジュウカラ夫婦が営巣中です。私どもの知恵が、彼らの喜びを支える力になれるよう、巣箱を取り巻く危機も含めて自然から素直に学びつづけなければならない、と思いを新たにしています。
『ソフィアート・ガーデン物語』
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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