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■第50話 「花の色は」 2012年6月22日

台風でも折れずに良かった 色、というのは人間にとっては、通常は光のスペクトルで見えるものを意味します。「花の色は うつりにけりな」は美しい容姿の「色」のことです。才色兼備の「色」とも言えます。色は人目を惹きますし、色が褪せると新鮮さがなくなり、古びてしまった印象になります。

白は、色がないとも言えますが、最も明るい色とも言えます。濃い緑が重なり黒に近い森になってくると、白い花は、美しさも相まっていやがうえにも目立ちます。

ソフィアート・ガーデンや自宅でも、梅雨のこの時期、終わりかけの白モッコウバラと白クレマチス、今が輝くような白さのヤマボウシやハクウンボク、エゴノキなど、白い清楚な花が咲いています。

コアジサイ(小紫陽花)はちょうど蕾が開きかけ、薄紫の繊細な花が見られます。このコアジサイは、薄暗い森が好きで、日差しの強いところでは育ちません。ガーデンのコアジサイは八ヶ岳で購入しました。増えたのか、もともと自生種もあるのか、植えた場所以外でも別のコアジサイらしき実生が育っています。香りの良い灌木です。園芸種では、薫り高い白のシャクヤク(芍薬)が咲き誇っています。

今年は花が少ないようです そして、これから夏に咲くのはナツツバキ(夏椿)やヤマアジサイ、アナベル、スイカズラといった白い花です。夏のウバユリも薄緑がかった白で、ガーデンの霧の中で大きくてすっくとたたずむウバユリの白が神秘的です。梅雨の時期から夏にかけて、この季節の主役は、暗い森の中で他のどの色よりも目を惹く「白い花の色」です。白が多いのは、白が目立つからであり、それによって虫をおびき寄せ、受粉の手伝いをしてもらうためでしょうか。

ヤマアジサイはパートナーの趣味で各地のいろいろな種類を集めていましたが、当地の自生のヤマアジサイは白です。自宅の園芸種のバラはこれから花盛りですが、これはピンクや深紅、オレンジや黄色など、さまざまな色を見せています。黄金シモツケ(下野)もオーレア(明るい黄緑)の葉に良く似合う淡いピンクの小花を満開にします。

アジサイの「ガク(装飾花)」がないのですっきりしています 早春は、緑の葉が茂る前に咲く花は、マンサク、アブラチャン、ダンコウバイ、キブシ、サンシュユなど、黄色くて明るい、陽だまりのような色の花が多いようです。これも、目立つという作戦では大成功で、虫達はすかさず見つけて、花弁に頭を突っ込んで花蜂がお尻を振ってダンスをしています。こうした中低木や潅木と違い、高木では、コブシの乳白色ややオオヤマザクラのピンクが山を染めます。

その後に続き、ミツバツツジ、スミレやカキドオシ、トキワハゼやサギゴケといった紫色の花が賑わい、そしてアズマシャクナゲやサクラソウやクリンソウなどの鮮やかなピンクの花も目立ちます。

総じて、葉が展開する前は黄色い花が、次いで明るい黄緑の葉が出てくると紫やピンクの花が、やがて鬱蒼とする頃には白い花が、というように、森の中では花の色が移り変わっていくように見えます。

黄色い花の版画 何も人間に見てほしくて、花は色を決めているのではありませんので、きっとその木が繁栄するために不可欠な虫や鳥やその他お客様のために、色を決めているのでしょう。色だけでなく、光の反射や色温度など、さまざまな信号を花が発信しているのかもしれません。

私たちは虫の眼や鳥の眼で自然を観ることはできませんが、きっと彼らの眼には、大好きな花が咲き乱れる色は万華鏡のようなきらびやかな世界として見えているのでしょうか。はたまた、おいでおいでと招きよせる手のようなサインが見えるのでしょうか。

色、というものは人間の心理に影響を与えることは、ゲーテの『色彩論』でも述べられていますし、現代のインテリアやエクステリアなどの建築関係でもよく知られているところです。白の花の色はガーデンの夏の風物詩ですが、私どもにとっては、白い花を見る頃は結構忙しくて心の余裕がなく、また薮蚊に悩まされるので庭仕事をしようという気にもならず、ひたすらガーデンの小屋の室内にこもって仕事をしたり、インドア中心の生活になります。水はもう結構、といいたくなるほど雨や霧で大気も白っぽく、なんとなく物憂い毎日です。

花の散る頃は地面が真っ白になります 白と緑の季節は、虫や鳥などがいきいきと活動的な反面、私どもは、その単調な色彩に飽きることがあります。

それまで5月の光と無限の色に囲まれた変化の美しさを味わい、一瞬一瞬に目が離せなかった時期から、夏至を迎え6月から8月のこれからの季節はピークを迎えた植物の「繁栄、安定、そして衰退へ」と、濃く栄華を誇った鮮やかな色が褪せていく無常観のようなものを感じてしまいます。

自然の織りなす姿の移り変わりに、小野小町の「花の色は うつりにけりな」の歌を思い起こします。

そういう中で慰みなのは、巣立った元気のいい幼鳥たちの声と、夏鳥たちの森に響く美声です。霧に包まれた森は音響効果が抜群で、鳥の声がたいへん美しく響きます。虫も葉っぱを丸坊主にする勢いで増えますが、それを鳥たちが糧にしますので、私どもとしては「葉っぱ好きなだけ、どうぞ!」とガーデンの虫は無視しています。これからのガーデンは葉が茂って暗くなり、小屋の中は昼間から電灯をつけなければならないほど緑陰になってしまいます。インドアにもガーデンの虫が入ってくることがあります。でも気にしません。第一、軽井沢で虫を気にしたら生きていけません。噛んだり刺したりしなければ良し、好きにしてもらいます。

アヤメの黄色と紫のコントラストは吸い寄せられるような色 ところで、ソフィアート・ガーデンの小屋は、杉板張りの素材にカラマツの樹肌色の地味な外観です。なるべくガーデンの雑木林に溶け込むような色使いを目指しました。こうした黒っぽい樹肌のような外壁の色は、春は新緑のみずみずしさや早春の花(黄色や淡い桜色)を美しく見せ、夏の白い花を際立たせ、秋の鮮やかな紅葉を引き立てる背景となり、冬の雪景色には白一色の中に黒、という墨絵のような風情になります。

あくまで私どもの主役はソフィアート・ガーデンの木々と野鳥たちであり、小屋などの建造物は、それらの美しさを称え、鑑賞するための、文字通りの背景になってもらおうということです。一方、小鳥の巣箱は檜皮葺(!)だったり、赤と青のおしゃれな外観だったり、けっこう贅沢と色の冒険を楽しみます。巣箱は、ソフィアート・ガーデンの鮮やかなアクセントです。

木々の茂った葉で薄暗く、野鳥の声はすれども姿は見えぬ、霧の中のソフィアート・ガーデンの夏。こういう時は、時には街中の色や光の洪水が懐かしくなり、ちょっとガーデンを飛び出したくなる時期でもあります。しかし、いざ街へ出かけてみると蒸し暑さにすっかり参ってしまい、緑陰の霧の中へすぐにでも戻りたくなるという繰り返しに、我ながら苦笑してしまいます。


 『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第50話 「花の色は」 
有限会社ソフィアート スタッフM( 竺原 みき )

 
 
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