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■第57話 「小屋を建てる」 2012年7月10日
今回は、ソフィアート・ガーデンの小屋を建てた時のことを綴ってみます。
私どもは縁あってこの土地と出会い、2007年春から手入れを始めました。そして丸3年ほどかけて土地をじっくり観察し、庭仕事をしながら毎年春から夏にかけて芽生えてくる山野草などを調べ、周りの雑木林の植生を観て、野鳥の声や姿から、その種類と性質、何を食べたり好んだりしているかを見続けてきました。
そして、2年前のちょうど今頃、2010年7月初旬にガーデンの小屋を建てるための地鎮祭を行い、建築工事が始まりました。
オフィスと自宅は近くにあるため、軽井沢にいる日は、小屋ができる前から毎日のようにガーデンに足を運び、ほとんど週末は木を植えたり手入れをしたりして過ごしました。建物がないのに、週末は一日中、平日も仕事の前後や昼休みに来ては、建物も何もないガーデンでひたすら庭仕事をしている私どもの姿を、周りの別荘の人たちは不思議に思ったのか「ずっと庭仕事をして疲れませんか?」と驚いて聞かれたことがあります。作業着姿でスコップを手に土を掘り、時にはヘルメット姿で杭を打ったりしているので、散歩の人からは工事関係者や造園業者だと思われているようでした。
確かに、植えた木に水やりするために近くの川からバケツに水を汲み、緩傾斜の土地を何十往復もすれば、手足はくたくたになりますが、当の本人は、木を植えて庭を手入れすることが何より楽しいので、こうした疲れは気持ちがいいのです。趣味でテニスやゴルフをしている人が、傍で見ているほど疲れないどころか楽しくて仕方がないのと一緒でしょう。
この土地の中にただ居るだけで、私は幸せで楽しくて仕方がありません。
四季を通して野鳥の美声が響き渡り、木々の木漏れ日がきらめき、季節の花や草のいい香りに包まれる時間は私にとっては至福で、体調が優れない時や頭の少し痛い時には、ガーデンに来るとすぐに治ってしまうほど特別な場所なのです。一番星が見えるほどあたりが暗くなり、そろそろ家に帰る時間だとパートナーが言うと悲しくなるほど、いつまでもここに居たいのです。
建物ができあがるまでの何年もの間、屋外で長い時間を過ごしましたので、ガーデンの野鳥たちともすっかり顔なじみになりました。
中には遙か頭上から、小さい木の実を私どもに落として合図する、いたずら好きのゴジュウカラもいました。
ただ、夏はヤブ蚊が多いし、冬はマイナス10度以下のこともある軽井沢ですので、いくらソフィアート・ガーデンが好きでも常に野外で過ごすのは少しきついものがあります。そこで、最低限のことができる小屋を建てることにしました。もちろん主役は庭ですので、ガーデンを楽しむための建物、というコンセプトで小さくて使い勝手の良いワンルームで、庭と家の中間にあたる下屋(げや)を広くとり、軒庇に覆われた土間とデッキを設け、ガーデンの庭仕事で汚れても気にせずに悪天候でもお茶などを楽しめる半屋外のスペースをつくりました。
そして2003年に自宅の設計、施工など建築全般をお願いした建築会社に今回も依頼し、何度も設計の修正をしながら最終的には最もシンプルな現在の小屋にたどり着きました。
自宅建築で、私どもの好みや考え方を良くわかってもらっていますし、毎年のように庭や追加工事などの相談や依頼をしている会社です。
自宅の設計も担当した、きめ細やかで忍耐強い女性設計士と、あうんの呼吸で意思疎通がはかれる頼りになる営業担当の専務、そして全社員や関係する職人さんたちから絶大の信頼と尊敬を集め、大工棟梁の頂点で有り続ける会長自らが、小屋の建築に関わるという幸運に恵まれました。この建築会社については、紹介したい物語がたくさんありますので、改めて書きます。
ちなみに、設計士さんは私どもの小屋のことを「趣味の家」と名付けていました。確かに、そうとしか呼びようのない建物でしょう・・・。
さて、地鎮祭の朝、鯛のお頭つきやお供えの野菜、塩、御神酒などを持って早くからガーデンに行くと、すでに建築会社のスタッフの人たちが来ており、東西南北に竹で結界を張り地鎮祭の祭壇の用意を始めようとするところでした。
梅雨の時期にかかわらずその日は大変晴れて、自宅の地鎮祭にもお世話になった神主さんが祝詞を捧げた瞬間にガーデンのそよ風が吹き抜け、ウグイスや夏鳥の美声が一層大きくこだまして、神妙な気持ちで一同で工事の無事を祈ったことを思い出します。
神主さんにも「野鳥の美しい声が四方にこだまする、この上ない土地ですね」と言われ、自分が褒められたわけではありませんが、なんだか嬉しい気持ちがしました。
地鎮祭が終わると、建物の位置決めと縄張りです。会長自ら掛矢(かけや)をふるって、現場で方位や庭の見え方などを確認しながら具体的な建物の場所を決めます。私どもは庭の見え方や建物の方位を大事にしておりますし、会長も大変信頼の置ける方ですので、それぞれの意見をもとに最終的に現場でのすりあわせで位置を決めました。図面だけでなく現場の中でコミュニケーションで決めていく方法は優れた大工でなければ無理ですし、現場を無視して仕様や図面だけで物事を決定していくような会社では不可能です。一度会長が関わった建物は詳細に至るまで徹底して仕上がりを確認し、そして住んで後もことある毎に会長自らが見守り続けますので、私どもはそれこそ大船に乗った心境でした。
余談ですが、軽井沢は高木が多いため台風などで枝落ちや倒木の被害がたまにあります。大きな台風の後に、そっと私どものガーデンの小屋の様子を見に来たと思われる会長の車が止まり、何事もないのを確認して、そのまま帰って行く姿が小屋の窓から見えました。
近くで工事があるときなどは、私どもの居ないときにも、そっと立ち寄ってくださっているようです。
こうして常に私どもの小屋を気に掛けていただいていることに感謝しております。
小屋は日常的に仕事場として、そして野鳥観察小屋として、また四季折々の山菜などの恵みを楽しむための調理や加工にも活躍しています。 下屋の深い軒から切り取られた四季の風景はどんな掛け軸や絵画よりも印象深く、日々刻々変化する生きたアートとして私どもの心を豊かにしてくれます。杉や檜、そしてこの土地で育った唐松を材にしてつくり上げた小屋は、ドアを開けるたびに木の香りがして思わず深呼吸したくなります。
自宅建築にも関わった設計担当の方や大工さんたちが、私どもの気がつかないところまで先を読んで使い勝手の良いように細かいところで工夫を重ねていることに気がつくとき、頭の下がる思いがします。
私どもも領域は違うけど、こんなふうに人の心に残る仕事をしていきたいものです。
建物というものは、そこに関わる人々の生き方そのものが形になったものであり、健康で快適に過ごしたいという祈りと願いが込められていると言えましょう。そして長いものでは百年単位で使われ続けていくものでもあります。
家づくりは寿命の長い仕事であり、いい加減なことをしてはいけない、というまじめな心根によってつくられた建物は、住まう人の心根にも影響を及ぼすようです。小屋の大きな梁を見上げるたびに、人が人のために誠心誠意、まじめに働くことの価値と意味を思い起こさせてくれます。私どももがんばらなければ、と気持ちを新たにいたします。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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