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■第61話 「真夏は来ぬ」 2012年7月16日
軽井沢にも人の波が押し寄せ、夏本番を感じる季節がやってきました。真夏の到来を告げる花火が夜空に咲き、祇園祭りの神輿をかつぐ声が賑やかな、天気の良い週末でした。
涼しい軽井沢とはいえ、週末は28度まで気温も上がり、ようやく夏のお祭りにふさわしい暑さになってきました。
もうすぐ梅雨が開けたら、良く晴れた日には連続して3日間、梅干の土用干しが待っています。6月に塩で漬けた完熟梅は、きれいな梅酢の中で、お日様のもとに並べられる日をじっと待っています。
自宅の2階デッキにある巣箱のシジュウカラも、ようやく土曜日の早朝に巣立ちました。もう人間で言えば成人しているのでは、というほど大きな声でヒナが鳴き、いつでも巣立つ用意はできているようでした。営巣の遅れを、長い養育期間でカバーしようというのか、それともこのシジュウカラの夫婦は子育てが趣味で楽しくて止められないのか、もしかしたら育ちすぎて巣穴から出られなくなっているのでは、と思ったりもしましたが、心配無用でした。
梅雨の大雨が止み、天気が上り調子になる抜群のタイミングを見計らって、ちゃんと巣立ちました。ヒナたちも、巣立ちのお祝いのような夜の花火の音を森の中で聞きながら初めての星空の夜を迎えることができました。
やっと、私どもも、すべての小鳥たち(自宅の巣箱で3家族、ガーデンの巣箱で2家族)の巣立ちを終え、巣箱の提供者としての責任も一区切りつきました。あとは秋にでも、巣箱の掃除をして、来年に備えるだけです。
週末ともなると、幹線道路である国道18号や旧軽井沢につながる離山通りは、車の混雑で身動きできない状態です。こんなときは、買い物には散歩がてら歩いて出かけるに限ります。いつもの散歩道である離山通りの裏の、雲場池や旧軽井沢につながる道を行くと、この時期はおもしろい植物が顔をだしています。
ギンリョウソウ(銀竜草)というキノコなのか草なのかわかりにくい、真っ白のタツノオトシゴを思わせる奇妙な小さな群生が、薄暗い森の中にとつぜん現われて少し驚きます。別名ユウレイタケと呼ばれるのも分かる気がします。
他の場所では、土の中から、ゆで卵のような鮮やかでかわいらしいキノコが顔を出しています。タマゴタケです。食べられるそうですが、キノコは眺めるだけにしている私どもは、目でしか味わったことはありません。
高原の夏の草、トリアシショウマ(鳥脚升麻)の白い花が森の中に線香花火のような白い筋を所々で描いています。緑のビロードのような苔に覆われた浅間石の石垣には、これも繊細なユキノシタの白い花が群生して、産毛のように光っています。
幹線道路沿いの喧噪と明るさはまるで別世界で、夕方の別荘地の森は薄暗く静かです。
時折、夏鳥のアカハラの「キョロン、キョロン」という美声が、音の雫となって静かな森の空気に波紋を描いて広がっていきます。
するとそれに負けまいと、いつものキビタキの溌剌とした美声が、アカハラの声の波紋にぶつかります。針葉樹の中から、幼鳥たちの楽しげで活発な声も混じって、森の音は賑やかなさざ波をたてて満ちていきます。
夕時の雲場池は、風もなく水面が鏡となって、空を映しています。
夕方6時近くの散歩は、岸辺の思い思いの場所で、頭を羽毛に埋めて、眠りにつく時間のカモたちには少し迷惑かもしれません。池は散歩する人々で賑やかですが、皆、眠そうなカモを驚かさないように歩いていますので、カモも特に気にする様子はなくだんだん薄目になって眠りに就いています。
雲場池をひとまわりする頃には、夜の霧が池から立ち上るのが見えてきます。軽井沢は霧が多いのですが、この霧が日中の暑さを消し去っていきます。
狐などが渡ってこない、池の水に囲まれた草むらの安全な場所で、ヒナたちをお腹の近くに守りながら眠りに入ろうとするカモの親子の姿が何組か見えます。眠りに就く親子をやわらかい霧のふとんが覆っていきます。 私どもも彼らの邪魔をせず、そろそろ家に帰りましょう。
帰り道は、大通りへ出て、スーパーで買い物をして帰ります。森の中とは反対に、夕方6時半をまわっても空がまだ明るく、相変わらず車の大渋滞が続いています。
渋滞中の皆さんには申し訳ないのですが、私は延々と続く車の列を眺めていると、「線路は続くよ、どこまでも」の歌を思い出し、思わず口ずさんでしまいます。
夕方の散歩を終え、家に着く頃には渋滞もまばらになっていました。夜7時過ぎになれは、大渋滞はウソのように解消されることが多いようですので、私どもは車を使って買い物に場合は夜にします。日中は、ひたすら裏道を抜けて走り、混んだエリアには近づかないのが一番です。
軽井沢の枝道は細いところも多く、2台の車がすれ違うのには結構気を使います。慣れた人々は、少し広めの場所ですれ違えるように待ったり、端に寄ったりして上手に譲り合います。このとき軽く会釈したり手で挨拶したり、お互いに気分良くすれ違えるようなコミュニケーションが交わされます。
しかしハイシーズンには、全国から人と車が押し寄せ、こうした譲り合いの流儀が通用せず、我が者顔で別荘地を猛スピードで飛ばす車や、狭い道での譲り合いができない(狭い道での運転が不慣れで技術的に譲れない)車も多いため、困ったこともあるようです。
私どもは、すれ違うときに難しい道では、慣れている当方が道を譲るのは当然と考えております。その際に、相手に悪気は全くないのですが、お礼のつもりで大きな音でクラクションを鳴らす人がいて、どきっとさせられます。
譲り合いの際には、窓をあけてすれ違いの際に会釈したり手で挨拶するほうが静かな別荘地などでは良いと思います。危ないとき以外の、特に挨拶代りのクラクションは、保養地域では遠慮したほうが良いでしょう。
また森の中は暗いので昼間でも車のライトを点灯させたほうが、何かと安全です。救急車のサイレンが鳴り響くたびに、どうぞ心にゆとりをもって「ご安全に!」と願う、恒例の夏渋滞です。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第61話 「真夏は来ぬ」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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