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■第66話 「避暑地の夏」 2012年7月23日
これからの季節、別荘の住人たちが軽井沢を訪れる姿は、夏の渡り鳥がシーズンになると次々と飛来する様を思わせます。全国各地から、夏の軽井沢をめざして次々と到着し、森の家々には明かりが点々と灯ります。家族や友人達、またはゆっくり一人を楽しむ人々が、何ヶ月ぶりの夏の住まいの換気や掃除に忙しそうです。
従来の別荘利用者は、7月から9月の終わり頃まで、特に梅雨明けからの盛夏の間を長期滞在しながら、夏の軽井沢生活を楽しんでいるようです。
近年では通年で利用することの多い別荘もあります。しかし、やはり圧倒的には夏の利用が多いでしょう。古い別荘建築物の多くは夏向けのものであり、秋が深まってからは寒くて滞在できないものも多いと聞きます。
軽井沢の夏の住人たちは長年、高原の夏の良さを存分に味わいながら避暑地における習慣を大事にし、別荘文化とも呼べる人々の関わり方を育んできました。
夏だけの、しかしそれゆえに、普段のしがらみを超えた交流の輪が楽しめるのも夏の軽井沢の良さでしょう。
私どもが知っている夏の別荘住人の方々は、同世代の人はほとんどおらず、多くは親の世代です。戦前の古くから、別荘文化を大切にしてこられた様子がにじみ出ており、軽井沢の歴史について、とても興味深いお話を伺う楽しみがあります。
そうした方々は夏の軽井沢での生活をとても愛し、人と人のつながりを大切にし、また地元への貢献を考え配慮しておられます。旧知の人たちとの語らいや小さな音楽会の開催、テニスなどのスポーツを楽しみ、華美な生活と言うより一見質素に見えるほどに合理的で無駄がない過ごし方に、私どもは学ぶことがたくさんあります。そして地元の人々も、こうした昔からの別荘の人々に対し、軽井沢での夏の保養を心から楽しんでもらおうという思いやりと優しい配慮をもっていて、気持ちの良い交流がなされています。
いろいろな場面で、社会的な立場として普段知り合うことのない世界の方々と、会合で同席したり会食したりすることがあります。こちらは少し緊張しますが、先様は気取りがなくオープンマインドであることが多く、垣根を越えて緩やかな輪のなかに私どもを招き入れてくれます。
高齢の方々の別荘文化に触れる機会は、私どもにとってはとても新鮮で、歓談の中に、誰にも知られていない歴史的な貴重な証言などが飛び出すこともあります。
私どもは軽井沢の図書館や資料館、近隣の市町の図書館でさまざまな軽井沢についての史料を探しましたが、浅間山の噴火によって定期的に灰に埋まってしまうこともあってか、歴史資料が意外に残っておらず、また残っていても、その内容には意図せずとも作り手による偏りがあります。
リアルな過去を知る知識人の方々の証言を聞く機会を持てたことは、私どもにとっての、貴重な財産だと思っています。こうした方々もやがて世代交代する中で、古くからの人間関係も含めて、後継世代はあまり軽井沢に愛着を持たない場合もあるかもしれず、さまざまな貴重な事実もやがては忘れ去られてしまうのでしょう。
ソフィアート・ガーデンにまつわる、別荘住人の方とのおもしろい出会いを一つ、紹介しておきましょう。私どもが、まだ小屋もない時期に、ヘルメットを着用してカケヤで杭をうったり木を植えたりしてガーデンを整備しておりますと、一人の年輩の男性が通りがかり、私どもに声をかけました。
散歩の途中のようで、しばらく話をしていると、その方は 戦前から親子3代にわたって外国在住の経験を活かした料理教室を開催し、レシピは数万、お弟子さんもたくさん輩出しているお菓子(お料理)の先生であることが分かりました。普段は東京で料理教室を開いておられますが、毎年、夏の間は、軽井沢で料理教室を開催していらっしゃるとの話でした。
私どもは先生に、小鳥との楽しい交流や、野鳥の好む木を植えて手入れをしていることを話しながらガーデンの中を案内しました。すると私どもの話の一つ一つを、驚きと楽しさの入り交じった表情で感心して熱心に聞いてくださいました。私のことを「小鳥とお話しできる奥様」と呼び、その後も私どものことを、何かと気に掛けてくださいます。先生は、戦前からの軽井沢の自然や宿場、街道の歴史、別荘住人のさまざまな話など、興味の尽きない話題をいろいろお話になります。
たまに料理教室に遊びに行くと、お弟子さん達が集まっている中で「奥様、小鳥のお話をしてくださる?」と先生からリクエストが出されます。私がいくつか小鳥との友情などのエピソードを話すと、皆さんがおもしろがって身を乗り出して上手な聞き手となり、楽しい時間を過ごすこともありました。
私どもは夏に仕事で忙しいことが多く、先生の料理教室にも、なかなか遊びに行くことが出来ないのですが、ふとした出会いから、何年も、夏限定の淡く楽しい交流が続いております。
別荘住人という、夏の渡り鳥のような人々が続々と軽井沢に訪れるこれからのハイ・シーズンは、人間関係に多彩さと広がりをもつ時期でもあります。
私どもは仕事も人間関係も、常に開かれた場を求めることによって自らの可能性を広げてきました。その意味で、居ながらにして外に開かれた場となる真夏の軽井沢は、私どもにとって、ガーデンの小鳥や植物との交流が中心となる他の季節とは違って、人との交流という楽しみがあります。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
メモ(本文とは直接の関係はありません)
ソフィアート・ガーデン物語を読んでいただき、ありがとうございます。
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