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■第70話 「学びの回想」 2012年8月5日
8月に入り、軽井沢の天気は、夕立もなく安定した晴れが続いています。今年は7月末にすでに済ませた梅の土用干しも、この時期まで待っても良かったのかもしれません。しかし、霧が多いこともあれば夕立に見舞われることの多い時もあり、毎年の気候には微妙な違いがありますので、こればかりは予想はできません。
日差しを遮る大きな木陰のない場所は、30度に迫る勢いですが、ソフィアート・ガーデンはすっかり涼しくなり、7月末の暑さが幻のように消え去ってしまいました。
木の葉も黄色くなって落ちるものも出始め、6,7月の木の葉を100%とすると、現在は7、8割ほどの葉の量になってきたような印象があります。葉が減るにつれて、木漏れ日の風景もだいぶ明るくなってきました。
これから冬までは、日々、ベールを少しずつ外していくように、ガーデンの草木が明るくなり、夏の間は緑のカーテンで幾重にも覆われていた青空が少しずつ顔を出してきます。夏の土用も終わり、季節は五行の「火」から「土」を経て、8月7日の立秋を迎え「金」へ移り変わってゆきます。
樹木は光合成とたっぷりの水で蓄えた栄養を、今度は実に移していきます。オニグルミの実も丸々とし、早々と落下するものも出始めています。ブルーベリーも青黒く熟しています。しかし大部分の実は、成熟するまではまだ先です。
山の動物たちが大好きなクリやドングリは未熟ですし、野鳥や蜂の好物であるヤマボウシの実が赤くなるのもまだひと月先の話です。
夏の花は紫色や白が映えます。ヤマハギやハギ、キキョウの赤紫、タマアジサイの淡い紫、これから8月末のクズの濃い赤紫などの他に、コマツナギやヤブマメの紫の花もあります。
アナベルやミナズキ、ノリウツギの白い花がそれぞれの木の高さで白い手を振り、ウバユリの薄緑の花やヤマユリの象牙色の花がいい香りで咲き、オトコエシ、そしてゲンノショウコの地味な白い花が森を明るくします。
オミナエシの黄色い花が盆のお供え花として夏の庭を彩ります。
地面に目をやると、空の色をうつしたかのようなツユクサが咲いています。ツユクサは「梅雨」時ではなく夏に咲きます。名前の由来は朝露の如く、早い時間に咲くためでしょうか。それとも露のように、はかない花だからでしょうか。このような色と美しい造形が地面にあることを、忙しい人は気がつかないかもしれません。しゃがんで、じっとツユクサの美に見入ることができるのは幸せなことなのでしょう。
ガーデンにはこの時期、リコボウというキノコを見かけます。信州では食べられるキノコとして有名で、私どももキノコの得意な人がガーデンで採取してくれたリコボウを恐る恐る食べてみました。私どものような素人が命をかけて食べるほどの味には思えないので、それ以来、他のキノコ同様にもっぱら鑑賞用としています。他にも、キノコに詳しい人に見てもらったところ、ガーデンには秋にはシモフリタケなどの、とてもおいしいキノコが出るということですが、私どもにとっては宝の持ち腐れでしょう。
8月の最初の週3日間は、夏の軽井沢恒例の「軽井沢夏期大学」が開催されます。
これについては以前、
第13話「学びの場」
で書きましたが、大正7年に創設され戦前戦後の中断を経て、昭和24年に再開、今年で再開以来64回目を迎えるという由緒ある学びの場であります。
軽井沢に住むようになって以来、毎年時間の許す限り出ております。今年は、「ノーベル物理学賞」を受賞された、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長の益川敏英氏、そして明治大学名誉教授の由井常彦氏、東レ名誉会長の前田勝之助氏、そして東京大学教授の沖大幹氏のお話を聴くことが出来ました。
それぞれの第一人者の素晴らしい話を、毎年軽井沢に居ながらにして聴講することが出来る、とても素晴らしい機会をいただき、講演なさる先生方、そしてなによりこうした場を作り上げ、育て続けた先人の方々と関係者に、感謝の気持ちでいっぱいです。
特に、今年は沖大幹氏が「地球をめぐる水と持続可能な社会」と題して講演されたことが印象に残りました。水文(すいもん)学、水循環システムの研究では第一人者として世界的に著名な沖大幹博士の講義はすばらしいものでした。
沖さんは、私が大学時代に所属していたサークルで二つ上の先輩であり、とても親切にしていただいた頼りになる優しい方でしたので、四半世紀ぶりにお会いする懐かしさでいっぱいでした。休憩時間に挨拶に行きましたが、世界第一級の学者でありながら穏やかな笑顔は変わらず、うれしくなりました。
3年前(2009)には、軽井沢夏期大学で、学生時代にゼミを受けた、お茶の水女子大学名誉教授の坂本満先生が講義をなさったときには、出張のため行けなかったのが残念で、ぜひお話を伺いたかったものです。
私は学生の頃、専攻している教育学以外で、関心のある領域を他大学も含めて講義やゼミに参加していました。その時、坂本先生の美学美術史というゼミも受けていました。九州や奈良といった文化財の宝庫である地域を先生の引率のもと、仏像や焼き物等さまざまに見て回りました。
先生はゼミの旅の途中で甘味処を見つけると、必ず、ゼミ生にお汁粉やおまんじゅうなどをくださり、もちろんご自身も大の甘党で、おいしそうに食べていらっしゃった姿を思い出します。
なにより思い出深いのは、奈良の国立博物館の近くにあった、知る人ぞ知る「日吉館」に、先生とゼミ生皆で泊まったことです。
日吉館は1914創業の古い宿屋で、宿帳には、「会津八一、和辻哲郎、小林秀雄、平山郁夫、土門拳」といった人々が名を連ね、驚いた覚えがあります。当時、一般客は宿泊できず、坂本先生のコネクションでお茶大の美学美術史ゼミの学生は特別に泊まることが出来ました。
この有名な宿は便利な一等地にありながら、お金のない学生(研究者)のために安く泊まれるよう配慮をしているだけでなく、夕食のご飯とすき焼きが絶品で、そのおいしさは今でも決して忘れません。
女将さんは、学ぶために奈良に来た人を大事にし、朝は宿から早く出て学びに行け、と皆をたたき起こしたと言われています。坂本先生のゼミ生はたたき起こされることなく学びに外に行きましたが、たしか冬で雪が降っていて、窓を閉めてもなお雪が入ってくる部屋で、皆でワイワイ雑魚寝した楽しい思い出が残っています。
夏期大学の後、ガーデンの小屋で所用を片付け、時折庭を散歩しました。
木や草花や昆虫を観察しながら、心の中には、 卒業して四半世紀以上経った学生時代がさまざまに蘇ります。
いい時を過ごすことができた、と幸せな気持ちがする一方で、しかし今となっては、その当時の貴重な学びの場と時をもう少し丁寧に過ごせばよかったという思いとが交錯し、ちょっと複雑な思いがしました。
しかし夏のひとときを、軽井沢夏期大学という学びの場をきっかけに知的なリフレクションが出来る今を過ごせるのは、なにはともあれ、幸いなことです。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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>> 第70話「学びの回想」
メモ(本文とは直接の関係はありません)
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