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■第64話 「職業選択」 2012年7月19日
軽井沢はもうすぐ、建築工事などが休みとなる自粛期間に入ります。軽井沢で保養を楽しむ人々の休養を邪魔しないための、避暑地軽井沢ならではの配慮です。
今日から夏の土用に入り、樹木の生長も一息つく頃となりました。土用は土をいじらない時期ですし、ソフィアート・ガーデン物語も、来週から「夏の省エネ」運転で進行する予定です。
さて今回は、自分自身のことを振り返りながら、
第60話「偶然と必然」
の続きとして 「職業選択」について考えてみたいと思います。
どのような仕事に就くかということは、ほとんど偶然の連続(とそこから導かれる必然の選択)を重ねて今に至っております。私どもは、こうして軽井沢の自宅とガーデンの小屋をオフィスとしておりますが、もともと、今あるような仕事のスタイルは自分自身で想像さえしていませんでした。
私、
スタッフM
は那覇市という街中で育ったものの、沖縄のワイルドな動植物に囲まれ、ぞんぶんに「自然」に親しんできました。「自然」というものは、手を加えなければ人間をすぐに覆い尽くしてしまうほどの勢いのある存在であり、巨大な台風の猛威も毎年経験しますし、むしろ保護したり愛でるようなかわいらしいものではなく、どうすればうまく折り合いをつけられるのか、という悩ましさも含む環境そのものでした。街の便利さは捨てがたく、以前は、田舎でオフィスを構えて仕事をするなどという志向は全くありませんでした。
東京で大学卒業後は、早く社会人になって自立したい思いが学生時代から強く、自分自身の職業イメージをある程度つかむために自分で大学の卒業生や、サークルの他大学の先輩にコンタクトをとり、アポイントをとって話を聴きに回りました。(私はおよそ就職指導なるものを受けた覚えがありません。)
そういう中で、公務員志向もなく、会計や経理、総務などの事務職にはまったく関心なく、オフィスの外に出ていろいろな企業の人に接する仕事を志向しました。知人からは教育職に向いていると言われて、試しに受けた公立高校の教員採用試験にも受かりましたが、やはり人から勧められて職業を決めるのではなく、行きたい道を歩こうと思い、結局辞退しました。
当時は売り手市場と言われる就職環境でしたので、複数の内定企業の中で最終的には企業人の教育事業を柱とする私立大学に、職員として入職しました。大学ですので営業とは言いませんが、企業向けに教育研修を企画提案するいわゆる営業職を希望しました。
職場は、いろいろな前職からの中途採用の壮年の男性ばかりで、いわゆるサラリーマン的な人は少数派で、アクの強い変人ばかりでした。華やかさのかけらもない、変わった職場ではありましたが、私も負けず劣らずで、まあまあ楽しくやっていました。
新卒一年目は、いわゆる営業職以外に、企業向け公開セミナーや研修講師として、経験も力量も伴わない中で組織からの要請で壇上に上がる経験もしました。その際に、教える楽しさと自分の適性も感じましたが、その後は適性はともかく、やり甲斐のある気持を持って目の前の仕事に邁進しました。
そんな中で1990年代半ば、世の中はインターネット創成期から普及への動きを見せていました。当時、まだパソコンは一部の人しか使わない時代でしたが、間違いなく情報化を無視してはいられない兆しが見えてきました。職場でも情報化時代の到来に対応するために、トップ直属として情報化推進のための部署が新設され、技能も知識もない私も何故かそこへ異動させられました。営業が気に入っていた最中に、未知の領域への異動にちょっと衝撃を受けましたが、組織の事情は組織人は受けるもの、と悩まず進みました。
実際にその部署では悩む暇もないほど忙しく、勉強することが山ほどありました。もとから合理的な思考を好む素地はあったので、職業適性はあったのかもしれません。情報処理技術についてのまったくの素人から、短期間でかなりの仕事を責任を持つようになりました。
当時からは、今のインターネット時代は想像できませんが、1990年代半ばからの数年間、情報処理技術の導入段階から大衆化に向けての激動の時代の真っ只中を、組織の力でたくさんの高度な専門教育の機会を与えられたことは、今考えると大変幸いでした。当時はまだツイッターやフェイスブックはおろかブログすらなく、ネットワークへつながずにスタンドアロン環境で表計算ソフトや文書作成ソフトなどの機械として使っていたものが、コミュニケーションやビジネス、教育、マネジメントなどに不可欠なツールとして変貌していく過渡期を、技術を理解したうえで導入したり運用管理したりという内側の立場から関わることができました。
同時にパソコン通信時代から始まって今に至るまで、インターネットの可能性と限界を早くから身を以て知ることができました。テキストデータのやり取りを電話回線で細々と行っていた頃から光による動画配信時代までを短期間に一気に駆け抜ける中で、技術のキャッチアップに精一杯で、今日学んだことは明日は古くてつかえない毎日が流れていきます。
そんな学びに虚しさを覚え、仕事の反動で古典や哲学を学びたいと、大学の公開講座や図書館などで学ぶようになり、ついに先生の指導のもとでちゃんと学びたいと、新卒後12年ほど勤めた職場を退職しました。当時、パートナーはコンサルティング会社で、それこそ夜昼なく忙しくしておりましたが、私の希望を大賛成して応援してくれました。
パートナーの出身母校の大学で学ぶ間に、結婚式の司祭としてたいへんお世話になった理事長先生から声をかけられ、授業の合間には理事長が責任者を務めておられた、キリシタン文庫という日本キリスト教の歴史資料を扱う研究所でお手伝いしたり、それ以外の時間はずっと大学図書館に籠もって、自分の大学生時代の何倍も勉強に没頭した幸せな時間を過ごしました。
こうして3年ほど学びの時を経て、現在の職場である弊社を、パートナーとともに立ち上げることになりました。余談ですが、企業の研修でライフプラン講座をするより自然科学や人文学などの「教養」講座をするほうが、また学生ならば学生時代は就職やキャリアを意識するより目の前の学問に没頭するほうが、後々の職業選択につながる人もいるのではないでしょうか。
新卒最初は、既存組織への就職しか考えていませんでしたし、適性も関心領域も自分一人(先輩には相談しましたが)で判断して、進路を決めていきました。適切なアドバイザーがいれば進む道は変わったかもしれませんが、時代と組織の偶然の流れの中で、その時々を精一杯進むうちに、現在の職業にとって必要な知識や経験、技能を十分に学ぶ機会を与えられていたことに振り返ってみて気づかされます。
自分の力で起業するパワーはありませんでしたし、今もあまり変わっていませんが、こうして自分たちの力で法人会社として運営して10年を迎えました。今では遠い過去となった、サラリーマン時代の気楽さと同時に難しさも思い起こします。
サラリーマンであったとしても、一人ひとりは、まるで生き方を外から決められ、自分では変えられないもののように、諦めたりつぶやいたりしながら、しかし実際は誰もレールなどは敷かれていないところを、模索を繰り返しながら歩いて行きます。
企業やその他組織で働く人々の中には、忙しさと将来展望の暗さに心身を消耗しきってしまい、思考の自由を奪われ、自分の意思で人生を決めることはおろか、昼の食事を決めることも極端な例ではトイレに行く時間を決めることも許されないような状態もある、と聞きます。
こうした日常が繰り返されれば、人間らしい誇りが奪われ、いつの間にか疑問や怒りすら持てなくなり、いつ途切れるかわからない仮想のレールの上を、レールがなくならないよう怯え続けながら歩くしかなくなります。
ソフィアート・ガーデン物語などを書いていると、気楽な人間に見えるかもしれませんが、実際には日々自ら生きるために、社会への責任を担うために、けっこう必死で働く姿が現実の
スタッフM
です。こうありたいという思いに相反して、目の前に飛び込んでくる雑多な偶然の中で格闘し、時には適当に休み、すべてが自己責任、自己管理という日々です。
だからこそ、私は、本当に大事なことだけに目を向けて、元気で明るく 楽しく生きていくのだ!という決意と意思をもって、見えない世界を楽観的に歩いていこうと思います。
そして、この時代、闇に目を向け同調するのではなく、自分の心の目で光を観る努力を忘れずにいる人、特に若くして自分で仕事を立ち上げたり、混迷の中でがんばる元気な人々に会うと嬉しくなり、こちらもつい応援したくなります。職業選択においては「就職」という小さな枠に無理に自分を当てはめず、「こうありたい!」、「これがしたい!」という、根拠が希薄でも強いあこがれや思いをもつ人々によって、未来を切り拓くエネルギーは生まれてくるようです。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
スタッフM
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