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■第112話 「香りを楽しむ」 2013年1月26日
ソフィアート・ガーデンはどのような庭かと尋ねられたら、私は「香りの庭」と答えるでしょう。
香りは、はかなくも強いものです。
ふと立ちのぼったかと思えば、幻のように消え去っていきます。とらえどころが無いようでいて、いつまでも記憶に残り、胸の深くに刻み込まれ、その香りに再び出会うことがあれば、色あせた記憶がたちどころに蘇ります。
私の好きなガーデンの香りは多種多様ですが、まず、落ち着く香りとして、無数の落ち葉でフカフカに肥えた黒土の匂いをあげたいと思います。そして苔に覆われた黒土や浅間石が放つ、湿り気を帯びた黴のような匂いも、渋さとえぐみが混ざった癖になる香りです。
土や、苔に覆われた岩の匂いは、音に例えればパイプオルガンの低音の重厚な響きに似ています。生きものの太古の記憶を辿るかのように、精神が沈静化して内省へと誘う根源的な香りです。
薄暗い自然林の中で古木の樹皮につく苔も、匂いたつ美しさがあります。風雪に叩かれ、ごつごつと割れた男性的な樹皮を、柔らかな産毛を思わせる女性的な苔が抱き、ベルベットの光沢を放つ姿からは、陽と陰が渾然一体に溶け合う森の色香が漂います。苔そのものからは芳香は感じられませんが、中には「オークモス」のように香水の原料になる苔もあります。森の中でどこか海を感じさせる香りです。
次に、水の香りについても味わってみましょう。水に匂いがあるのかと、不思議に思う人もいるかもしれません。しかし私は、水ほど好ましい匂いはない、と思うほど水の匂いが好きです。立ちこめる霧や清らかな川の水しぶきには、全てを浄化する清冽な水の香りがあります。深呼吸すれば肺の奥深くまで潤います。
白い雪景色がまぶしいほど、よく晴れた冬の日は、オゾンのような匂いがします。雨の降り始めに土埃を水が鎮める匂いも、水と土の混ざった独特な香りがします。
土や岩や水の香りはむしろ脇役かもしれません。植物の香りの世界ほど豊かなものはないでしょう。花や実のフローラルやシトラスの香りはもちろんですが、草や根にもそれぞれに特有の芳香があります。私はガーデンのヨモギを干して、ウオッカに浸してエキスを抽出し、それにハッカエキスを少し混ぜて自家製の虫除けを作ります。ヨモギエキスの香りはカラメルのような甘さと若干のスパイシーさを併せ持ち、好きな香りなのでボディケアに使うこともあります。
垣根にはびこる
スイカズラの花
は、ジャスミンのような甘い香りです。梅雨時にはこの花を大量に摘んで陰干しにして、お酒に漬けて忍冬(にんどう)酒をつくりました。金銀花(きんぎんか)の薫り高い滋養効果のある薬効酒で、少し飲んだだけでお腹がポカポカと温まりますが、おいしいのですぐに無くなってしまうのが残念です。パートナーが梅雨の頃に仕込んでおいた杏酒もただいま飲み頃で、杏仁の香味がすばらしく「飲み過ぎに注意」です。
花や実や草だけでなく、木の香りもまた、すばらしいものです。特にモミやヒノキ、カラマツなどの針葉樹のすっきりとした香気は格別で、それらが大地に落ち、微生物によって朽ち果てるときに発する甘い発酵の香りは、見えざる手となって私をこの地に導いてくれました。
まだ木の芽も固い早春の4月、樹木は冬のままに見えますが、その内面では水を盛んに吸い上げています。雪に包まれて深い眠りについていた美しい木の精たちは、春先に目覚め、うーんと伸びをするかのように枝先から水の滴りとともに木の香りを漂わせます。そして初夏になると、勢いを増した草木からは、今度は青い若葉の匂いがほとばしります。盛夏には、むせかえるほどの草いきれに包まれ、少しうんざりします。
ガーデンから屋内に入ると、薪ストーブの煙の匂いがして暖かなくつろぎを覚えます。薪をくべるときに漂うタールや煙の匂いは、魚料理などの消臭効果もあります。私は正露丸の匂いが好きで、丸薬を直接嗅ぐのは少しきついのですが、正露丸の瓶が入った箱の香りぐらいのバランスで嗅ぐと微かなタール香に癒やされます。
正露丸の原料でもある木タール(木クレオソート)には殺菌作用があり薬に使われるほどですので、この香りで癒やされる人がいても不思議ではなさそうです。
太陽の香りは乾いた日向の匂いです。お日様に干したふとんや干し草、天日干しの梅干しの香りが嫌いな人はあまりいないでしょう。
明るく温かいお日様の香りからは、誰もが健康をイメージします。ときに、日向くさいと表現される野暮ったさもあります。
子供の頃、真夏に外の強い日差しのもとで遊んだ後に、日にさらされた腕から焼きたてのパンのようなニオイがしたことを思い出します。沖縄の強い日差しに肌が焦げてしまったのでしょうか・・・。将来の美白のことを全く考えず、健康的な子供時代を過ごしましたので、大人になってから少し後悔しています
真夏の強烈な太陽が照りつける日、ガーデンの木漏れ日は土や樹木をほどよく照らし、そよ風が余分な湿気や雑菌を消し去り、さわやかな森の風の香りがします。
屋内では年間を通してお香を焚いて楽しみます。冬向けに、京都で買い求めた「土」の香りのするお香を焚いてみました。読書にふさわしい落ち着いた香りです。
春から秋の間はスズメバチなどに刺激を与えないように香りを控えて、自然の香りそのものを楽しむ生活ですが、冬は他の季節とはひと味違った、香りの楽しみが待っています。雪と氷に覆われたこの季節は、安心して好きなフレグランスを身にまとい、香りの芸術を心ゆくまで味わいたいと思います。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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(スイカズラの花の写真)
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