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■第116話 「回遊式」 2013年2月22日

白と黒のモノトーンは少し飽きました 今年の冬は雪が例年より多く、普段は美しいと思う雪景色にも飽きてきました。軽井沢に住むようになってから、この春で10年目を迎えますが、毎年違う冬のありようを経験しています。一度たりとも同じ傾向がない、というのが軽井沢の冬の印象です。

長野県の東信地区は雪が少なく晴天率が高いです。冬は特に明るく晴れて空気が乾いた日が続きます。軽井沢の冬は雪がない分、寒いと言われます。確かに、日本海側に比べて雪は少ないでしょうが、年によっては嫌と言うほど降ることもあります。2004年の春に当地に引っ越し、初めて軽井沢の冬を迎えた1月には一晩で60センチも雪が積もり、一方で全くと言って良いほど雪の降らない年もありました。雨と雪の境目の過冷却の雨が降り、着地したとたん氷になる「雨氷(うひょう)」に悩まされた年もありました。全てが透明な氷にコーティングされるのは美しいのですが、氷漬けの木も、氷の枝にとまる小鳥たちもかわいそうで、本当にやっかいでした。

屋根の雪が降下すると、つららが反る この冬は一度に降る積雪量は2,30センチほどで、それほど多くないのですが、積雪の日数が例年になく多く、寒さで溶けないこともあってどんどん積もってしまいます。日中に少し温かくなると若干溶けますが、夜には氷点下にさらされて厚い氷面になり、その上にまた新雪が積もります。こうして何度も圧雪されたスケートリンクにうっすらと新雪が乗った状態ですので、車も人も足元に十分注意しなければいけません。

気温が低いときに降る粉雪は、軽くて乾いたパウダースノーです。さらさらと軽いので箒で「雪掃き」ができます。たまに風が吹くと大気中に粉雪が舞い、日差しを受けてクリスタルの輝きを放ちます。まばゆい白銀の世界に光がキラキラと流れる様子は美しく、冬の軽井沢のファンタジーを演出します。この魔法は見飽きることがありません。

雪に閉ざされたソフィアート・ガーデンの小屋では、休日、私どもは読書をします。日頃、読みたいけど読破できなかった本や、名著と思う本を選び、最初から最後まで声に出して丁寧に朗読します。朗読係はパートナーで、私は薪ストーブの前で聴き役を務めます。狭い小屋ではありますが、ストーブを中心に歩き回りながら朗読します。吹き抜けの天井なのでコンサートホールのように声がよく響き、なかなか心地よいものです。

薪ストーブから見た室内 小屋の薪ストーブと煙突は、ちょうど部屋の真ん中あたりに位置しており、周りをぐるりと回遊することができます。この「回遊式」の動線は結構使い勝手が良いものです。特に狭い小屋では、複数の人が動くときにお互いの動線がぶつからないよう空いているほうから回り込んで用事をすることができます。車いすでも回れる配置にしましたので、キッチンワゴンなども無理なく動かすことができて便利です。

冬の運動不足を解消する、という訳ではありませんが、どうもパートナーは普段から歩き回って考え事をする癖があり、朗読も自然とこのスタイルになりました。パートナーはストーブを中心に時計まわりで歩いて朗読すると落ち着くと言い、私は歩きながらの朗読はしませんが時計まわりは目が回るので反時計まわりの方が楽です。たまに方向を変えたり、ストーブと円卓を組み合わせて八の字まわりも組み入れたりと、冬の屋内ウォーキングはけっこう楽しめます。でも、もしその様子を小屋の外から見ると、かなり変でしょうね。

自宅のキッチンやその他の部屋も、随所に回遊式を取り入れて、どちら側からでも回り込めるようにしました。特にキッチンなどは、一人が占有して他の人が入り込めないような動線にしてしまうと、手伝う側と手伝ってもらう側とで動きがぶつかり、しまいには手伝うのが面倒になってしまいます。その点、回遊式は住まう人同士が相手を自然に気遣いながら無理なく動ける動線です。また回遊式は狭い空間を広く感じさせる効果もあります。くるくると回っていると、詰まりや終わりがない分、無限の空間にいるような錯覚を覚えます。


凍結と積雪と勾配のコラボレーション

ソフィアート・ガーデンの中にも回遊式を取り入れました。もともと北西から北にかけて高い丘になっており、南東から南にかけて低く開けた緩傾斜の土地ですので、小屋をつくった建設会社のアドバイスで、小屋の周りはフラットに整地して使いやすいようにしました。小屋の前まで車で行くこともできるように、人だけでなく自家用車や植木の手入れの車なども通ることができる小道をつくってもらいました。土地は自然地形を生かしてあまり土地の形を変えないように心がけましたが、このようにして良かったと思います。

小道を使って敷地を一周して車を小屋の入り口まで横付けすることができますので、足の不自由な人を案内するときは安心です。また、薪などの重いものも車で小屋や薪置き場まで運べるので負担になりません。

公道でスタックしなくて良かった・・・ そして回遊式の小道は、いくつかのゾーンに分かれたガーデンの樹木や山野草を眺めながら庭を楽しめる舞台装置にもなっています。さらにガーデンの見えない奥側に野生動物が潜んでいる場合もありますので、まずは車で通ることにより、人間も動物もその存在に気がつき、不意に遭遇するのを避けることができて安全です。

冬季はあまりに雪が深くなると、勾配が若干きつい坂でタイヤが空回りしてスタックしますので、車で小道を回遊することは避けます。

先日、積雪を甘く見て、ガーデン内の小道の厚い氷でタイヤが滑ってしまい、50センチほど積雪のあるところでスタックしました。二人でスコップで雪を掘り、いらない毛布や薪や段ボールを組み合わせてタイヤが滑らないようにしてがんばりましたが、日暮れまでに車を救出できず諦めました。

結局、ガーデンから人里まで大雪の中を歩き、そこでタクシーを呼んで家に帰るという難儀な経験をしました。庭で遭難?するという経験はあまりにばかげていて、思い出すとおかしくなります。

動線だけでなく思考も、行き詰まりを感じるときはこの回遊式を思い出し、あえて反対から逆回りして解決へのアプローチを考えてみるのもよいかもしれません。メビウスの輪のように無限に広がるほうが楽しいものです。

 『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第116話 「回遊式」 
有限会社ソフィアート スタッフM( 竺原 みき )


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