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■第117話 「道を往けば 2」 2013年3月2日 番外編(その13)

関東地方では春一番の強い南風が吹きました。スギにとっては当たり前の営みである花粉の飛散も、人間にはあまり歓迎されないものです。

浅間根腰(あさまねごし)はカラマツの産地 標高1000メートル前後の軽井沢では、針葉樹といえばカラマツやウラジロモミが多く、スギは生息に適していないためかあまり見かけません。かたや、お隣の群馬県は杉林がとても多く、東京に車で行き来する道中はあたり一面に黒々とした杉山が広がります。花粉の重さで枝がしなり茶色く見えるほどの杉林を車窓から眺めていると、また今年も花粉症の話題が聞こえてくる季節であることを思い出します。

軽井沢から東京方面に向かう上信越自動車道では、これからの季節は、車道から見える民家の庭先や山の斜面など各所に植えられた梅林が見事な白や桃色に染まり、見ているだけでは物足りず車窓を開けて香りを探したりしています。

花粉で色づく杉林・・・ 私は花粉症とは無縁でしたが、何年か前に見渡す限り杉林に囲まれた場所で、ガソリンスタンドで給油しながら風に乗った梅の香りを楽しんでいるときに、突然、くしゃみと涙が止まらなくなりました。それ以来この時期は、杉林の近くでは警戒してマスクをしています。

今年は花粉よりも中国大陸からの黄砂や大気汚染が健康に悪影響を及ぼすと報道されており、季節の風物詩である春霞も気のせいか息苦しく見えそうです。

軽井沢は長い日本列島の南北東西のちょうど中ほどにあって、太平洋側に行くにも日本海側に行くにもほぼ同じ距離です。本来は山続きで人の足では困難な道も、トンネルや道路の整備によって便利に快適に移動することができるのは、本当にありがたいことです。道を往くたびに、日本を訪れた外国人のような目で日本の国土の多彩な気候や風土に驚き、感心し、驚嘆させられます。

この時期、東京や大阪、名古屋方面へと、太平洋側へ車で移動する旅は、いくつもの季節を往来するタイム・トラベルでもあります。標高1000メートルを起点に道を下っていくと、氷点下の雪と氷の世界から、穏やかな春の陽気とのどかな里山の景色を経て、高層ビルで空が囲われた大都会へと、2,3ヶ月を一気に早送りするかのようにめまぐるしく「季節」が変わっていきます。

碓氷峠を下るときは標高差で気温も気圧も上がり、飛行機で急上昇するときのように気圧で鼓膜が張ったようになります。空のペットボトルが変形して「ポコン!」と音をたてることもあります。上るときはその反対に気温も空気圧も急速に下がりますが、同じように耳が張って空のペットボトルが凹む音がします。

上越方面など日本海側に向かう旅では、どんどん雪深くなり、黒々とした針葉樹林がしなるほどの積雪に驚くことがあります。豪雪の中、何台もの除雪車が懸命に道を開けてくれる姿が見られます。高速道路の雪は踏み固められて轍でタイヤが滑り、車線変更の際にはハンドルをとられそうになります。新潟県内の道路を走るときは、大雪の時にトンネルに入ると山の胎内に守られたようでほっとします。厳しい気象と戦ってきた人々の忍耐と智恵が技術を培ったのでしょうか、北越方面の道路は土木工事の技術水準が高いような気がします。

雪との戦い 以前、雪深いことで知られる上越高田のあたりで、大雪のために高速道路が通行止めになり下道を走ったときのことです。街の中はますます雪深く、想像を超える積雪に驚きながら走っていると、前の車が右折の合図をして曲がるタイミングにもかかわらず戸惑ったように動きが止まりました。どうしたのだろうと、ふとその車の行く先を見て理由がわかりました。あるはずの道が、除雪が追いつかず何メートルもの雪の壁で塞がれ「道がなくなっている」ため右折できないのです。

他にも除雪ができずに閉鎖されている道はいくつもありそうでした。その先に住む人はどうしているのだろうという思いが心に浮かびましたが、智恵と経験で冬を乗り越えてきた地元の人々は、きっとこの雪の中で上手に暮らしているのだろうと想像しつつ車を走らせました。江戸期のベストセラーと言われる鈴木牧之の『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』という、雪とともに生きる暮らしを綴った名エッセイがありますが、ふとそれを思い出しました。

開放感のある景色が広がる
いくつものトンネルを抜けて富山県に入ったあたりから、まわりは広々とした開放感に包まれます。遠くに立山連峰を眺め、見渡す限り水田やのどかな丘陵が広がり、ところどころに屋敷林に守られた散居があります。
このあたりの四季折々の田園美は、私が大好きな風景のひとつです。特に春は、北や西を護る針葉樹の屋敷林に落葉広葉樹が柔らかさを添えて、日本の美を象徴するかのような絵画的な景色です。

屋敷林は財産 砺波地方では、それぞれの家が大切に手入れをした屋敷林が見られます、春はスギやヒノキの暗い色を背景にコブシやサクラが明るく浮き立ち、レンギョウの黄色やユキヤナギの白がふっくらと立体感をもったマチエルで垣根を覆います。夏の稲田の明るい黄緑色も、秋の黄金の実りも、水墨画を思わせる冬の雪景色もそれぞれ整然と美しく趣があります。

北陸を訪れるときは、氷見(富山)や金沢でおいしい魚を堪能するのが楽しみです。正月のあたりですと、麹とかぶらと富山湾でとれたブリの甘みが乗った「かぶら寿司」も味わえます。この地を訪れるたびに「水」は「豊かさ」の源であると実感します。北陸の空気は美しい水を含むようなひんやりとした潤いを感じます。

4月初旬の桜です 清らかな水が育てるおいしいお米や魚、そして雪深く美しい自然。すべては水が生み出し、人の智恵がそれを受け入れ、細やかに磨き続ける中で培われた豊かな「水の文化」のように私には思えます。

いっぽうで太平洋側は日本海側に比べて冬の天候は安定しています。特に関東と北越を同じ時期に行き来すると、気候風土のあまりの違いに、同じ日本とは思えないほどです。

東京や大阪などの気候に恵まれた大都市で生活していると、約束どおりに物流の荷物が届くのは当たり前だと思ってしまいますが、雪で閉ざされた道を往くたびに、物流を支える人々の苦労は計り知れないものだということがわかります。

こうして軽井沢から東西南北、日本列島を移動するたびに、帰ってくるとほっとします。この時期、他の地域ほど花粉も大雪もなく、そして人も緑もない、ないない尽くしの軽井沢の冬の終わり。でも、たくさんの小鳥たちが旅を終えて戻ってきた私どもを迎えてくれるのです。

 『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第117話 「道を往けば 2」 
有限会社ソフィアート スタッフM( 竺原 みき )


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メモ(補足)
ソフィアート・ガーデン物語にお越しいただき、ありがとうございます。

離山が浅間を覆い隠しています 「人も緑もない、ないない尽くしの軽井沢の冬の終わり」と書いていますが、それはソフィアート・ガーデン周辺のことです。

軽井沢駅前のスキー場やショッピングセンターは、休日ともなれば買い物やレジャーを楽しむ人や車であふれかえります。

例年この時期はアジアのツアー客が多いのですが、今年はすっかり様相が変わり、日本人客ばかりが目立つようになったのが大きな変化です。

 
 
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