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■第118話 「冬芽と葉痕」 2013年3月8日
明るい時間が長くなってきました。あと2週間もすれば「春分」です。晴天の日は、昼過ぎの一番温かい時間帯には外気温が数度から10度前後まで上昇します。
日の光で温まった屋内は25度前後まで上がり、最小湿度は20%台まで下がることもあります。
乾燥注意報も出されるほど空気が乾いています。
軽井沢の2月は最も寒く、2012年は2月3日に氷点下18.6度、2013年も2月25日に氷点下15.8度の最低気温を記録しました。この2年間は冬の気温が例年より低めで、そのうえこの冬は雪が多いので少々うんざりしました。
しかし2月も終わりに近づくと、なんとなく太陽のまぶしさを意識するようになります。春の訪れを予告する温かい日が訪れ、各地で春一番の話題を耳にするようになると、軽井沢も寒さの表情が変わります。
もはや、冬は峻厳な顔をゆるめて、居心地悪そうにそわそわしています。
3月に入ってたまに思い出したように降る雪も、日にあたると溶けていきます。日陰はまだ雪や厚い氷が残るものの、日当たりのよいところは雪はなく土やアスファルトが見えます。
ソフィアート・ガーデンも雪がだいぶ溶けて土がぬかるんできました。この季節は雪解け水が絶えず地表を潤す一方で地中が凍っているため大地の水はけが悪くなります。4月になって地中の氷が溶けると水はけが良くなり、泥やぬかるみはうそのように収まります。軽井沢の土は基本的に軽石や礫が多いため、本来は水はけが大変良いのです。
ちなみに当地における建築の基準として軽井沢町から示される凍結深度は70センチメートルです。冬の大地は数十センチもの厚さで大地が凍るため、建物の基礎も水道管もそれを考慮して地中深く入れておかないといけません。
日陰はまだ凍っていますし日向はぬかるみですので、足場に気をつけながらソフィアート・ガーデンを一周します。木の枝先を見上げたり、のぞき込んだりして冬芽観察をしてみましょう。冬の木の芽は、なんだか動物のような顔をしていたり宇宙人のようであったりと、様々なスタイルで春を待ちます。
ホオノキの冬芽は筆先のようです。サンゴカク(珊瑚閣)というモミジの枝や木の芽は真っ赤に染まっています。赤い枝先の木の芽から出る新緑は黄色い葉で、なんとも楽しい配色です。
春、一斉に薄緑がかった黄色い花を咲かせるアブラチャン
の蕾が数え切れないほどあります。今年の春も、あの大好きな花が満開になると思うと、じんわりと嬉しくなります。
綿毛をまとってたくさんのコブシの蕾が枝先に見えます
。農作物の豊作を占うコブシの花には、特別な思いをもつ人も多いでしょう。
宮沢賢治が「マグノリアの木」という物語で「サンタ、マグノリア、枝にいっぱいひかるはなんぞ。」「天に飛びたつ銀の鳩。」「セント、マグノリア、枝にいっぱいひかるはなんぞ。」「天からおりた天の鳩。」 と美しく描いています。今年はたくさんの「銀の鳩」や「天の鳩」が、ふっくらと白い羽を広げるのでしょうか。
ついでに葉痕観察もしてみましょう。「葉痕」は落葉樹が葉を落とした痕のことです。これは、樹木によってさまざまな姿になりますので、冬の樹木観察で樹種を特定するときの目印になります。 クルミの葉痕はよく知られており、羊の顔のようだ、などと言われます。
冬芽や葉痕の観察をしていると、葉も何もない枯れ木に見える落葉樹の枝に楽しい表情を見つけることがあります。何も見るべきものもない冬枯れの落葉樹林で、一人で枝先をのぞき込んでは楽しそうにしている変わった人がいれば、それはスタッフMかもしれません。
ガーデンの中で、とても日当たりのよい一角があります。春にサクラソウを初めとする山野草が咲く場所です。モミの木の枝が傘になっているためあまり雪も積もらず日当たりも良いので、あたり一面真っ白に雪が積もる冬でも、その場所だけは地面がよく見えます。ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)が自然に茂り、青い実をつけています。リュウノヒゲの根は漢方で鎮咳、去痰薬として使われ「麦門冬(バクモントウ)湯」として有名です。
この冬は正月早々、私もパートナーも風邪でのどを痛めてしまい、市販薬の「麦門冬湯」に世話になりました。
第65話「黄蘗(キハダ)−木の薬効−」で紹介した黄蘗(オウバク)
といい、麦門冬といい、ガーデンにはさまざまな種類の薬草や薬木があります。
薬草や薬木の世界は興味深く、これからは「ソフィアート薬草・薬木園」と名前をかえて、薬の観点からガーデンの植物研究をしてみたくなりました。とはいえ、ガーデンやその付近にはスズランやトリカブト、ヒョウタンボクの実といった猛毒植物も自生していますので、口に入れるのは慎重にしたいと思います。
『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第118話 「冬芽と葉痕」
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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