>> ホーム
 >> 会社概要
 >> 事業内容
 >> ソフィアートの研修
 >> 代表者プロファイル
 >> 研修雑感・コラム
 ソフィアート・ガーデン物語
  >> 序 「案内係のMです」
  >> 第61話〜第70話へ
  >> 第71話「夏の恵み」
  >> 第72話「古艶」
  >> 第73話「軽井沢に住む」
  >> 第74話「庭の達人」
  >> 第75話「霧の軽井沢」
  >> 第76話「クリエイター」
  >> 第77話「熊に遇う」
  >> 第78話「小鳥や芸術」
  >> 第79話「お茶の時間 8」
  >> 第80話「母への感謝」
  >> 第81話〜第90話へ

 >> 連絡先
 >> Coffee Break


ソフィアート・ガーデン物語    >>前の物語へ >>次の物語へ

■第75話 「霧の軽井沢」 2012年8月25日

南北に長い国土を有する日本の気候は、多様性に富んでおりますが、夏は全国的に湿度が高い傾向にあります。「家の作りやうは夏をむねとすべし」と徒然草にもあるように、高温多湿の夏を快適に過ごす工夫が重ねられてきました。

柔らかい筋雲と積雲 長野県の東信地域は、日本全国で見ても日照に恵まれた晴天率の高い地域ですが、標高1000メートルの軽井沢は少々異なり、高原の夏は霧に包まれることが多いため湿度が高くなりがちです。

軽井沢の霧の発生は、軽井沢町役場の広報誌によれば年間120日ほどです。霧の摩周湖ならぬ、霧の軽井沢です。

霧は、気温が下がり大気中の水蒸気が飽和点に達することで発生します。春先は温かくなる前にも霧が出ますので、急激な気温変化のきざしとも言えます。碓氷峠を車で移動するときに濃霧に包まれると、数メートル先が全くと言ってよいほど見えなくなります。相手に車の存在を示すためには、日中であってもヘッドライトだけでなくフォグランプも点灯するほうが安全です。

適度な湿気は植物の生育にとっては恵みとなります。しかし湿気は、建物や家具、畳、布製品にダメージを与えます。軽井沢にある別荘の多くは、夏のシーズンを終えると窓を閉め切ってしまうため、湿気によるカビに悩まされる人も多いと聞きます。

毎日どんどん咲きます 離山(はなれやま)を境として東側(旧軽井沢側)は、軽井沢の中でも霧に包まれることが多く、地形によっては地面の湿気が溜まりやすいところもあります。たとえば、離山の北側に位置する、南側が高く北側が低い北斜面の土地などは、湿度が高くなりやすいといわれています。

また、旧軽井沢の中でも場所によっては特に湿気の多いところもあります。以前、私どもが家を建てる前に、旧軽井沢にある有名な貸別荘で滞在したことがありますが、持参した塩が空気中の湿度で自然に溶けているのに驚きました。また、スーパーで買った特産品の花豆の甘納豆を食べようと開封したまま放置していたら、翌日にはまぶされた砂糖の粒が、これもまた水に溶けたようになっていました。

その貸別荘地は、沢のある変化に富んだ自然豊かな広い敷地で、何棟もコテージがありましたが、私どもが滞在したところは周りが小高く建物を囲む地形になっていたため、その中でも湿気が溜まりやすい条件だったのでしょう。何も知らなかった当時は、すっかり溶けて水になった塩を眺めながら、軽井沢の夏の湿度が想像を遙かに超え、不安になるほどでした。

自宅は、何も知らずに昔から人が多く住む場所を選びましたので、結果的にこうした湿度の害に悩むことはありませんでした。塩も砂糖も湿気で溶けることは全くありません。なお、軽井沢町の中でも、西側(追分方面)は比較的日当たりが良く湿度が低めです。浅間山や軽井沢の中心部から離れた南軽井沢方面は、日当たり良好な畑もありますし、かつて尾瀬に次ぐ湿性植物の宝庫であった場所もあります。

赤トンボは電線に等間隔で並びます 話は少し変わりますが、私どもの自宅は「エアサイクル工法」を用いて建てました。この工法は、自然の力で空気を循環させることで、住みやすく長持ちする家を作ろうというパッシブソーラーの仕組みを採用しております。夏は床下と屋根裏の換気口を開けて外気を取り込み、熱を逃がします。冬は床下と屋根裏の換気口を閉じて外気を遮断します。
まあ、昔の日本家屋ではごく普通に行われていた家の造りでしょう。

床下と屋根裏の換気の結果、太陽熱で暑くなった空気は壁面に設けられた空気の通り道を通って上昇気流として屋根裏に登り、屋根裏の換気口から排出され、その流れで地面の冷涼な空気が床下の換気口から取り込まれます。こうして電気を使わなくても空気の自然な対流が起こり、夏涼しく過ごすことができます。

ソフィアート・ガーデンではカブトムシによく会います 一方、冬は床下や屋根裏の換気口は閉じますが、日中の太陽で屋根や壁面が温められ、その空気が壁面を伝って全体にいきわたり、夜には屋根や壁面が冷えるものの床下の放射熱が循環する、という原理をうたっております。

その仕組みを実際に確かめたわけではありませんが、丸8年間住んでみて、年間を通して自然の力で温度が適温に保たれ、夏は涼しく冬は温かさを保っているのは事実です。もっとも、工法の如何を問わず、家を建てた建築会社の実力と、南と西を覆う大きな落葉樹の効用(夏は直射日光を防ぎ、冬は日当たり良好になる)、土地を取り巻く自然環境の力が大きいと思います。

住み始めた当初は、一般的な地域同様に、梅雨時や雨の多い秋口まで換気口を開けてしまったため、室温の安定は申し分ないのですが、湿気を家に取り込みすぎる結果となってしまいました。軽井沢では、湿気を取り込まないためには雨の多いシーズンは床下や屋根裏の換気口を閉めておいたほうが良い、ということに何年かしてから気がつきました。また、夏も霧が吹いてくる時に窓を開けていると、室内の湿度計は軽く70%を超えてしまいます。霧の時は、窓を閉めたほうがいいのですが、その頃はまだ暮らし方がよく分かっていませんでした。

比較的日陰が好きなようです すると、二年目の梅雨時に、困ったことが起こりました。以前から使っていた安物の合板製の家具に青カビが生えているのを見つけました。当時、私は呼吸器がカビセンサーのような役割を果たし、カビがあるとクシャミが止まらなくなって苦しみました。ちなみに今ではカビも平気な体質に変化して、弱かった呼吸器もすっかり強くなりました。不思議なものです。

カビをきれいに拭いたとはいえ、なんだか気になるため、結局その家具は廃棄せざるを得ませんでした。家具を捨てる際に、好奇心から解体してみたところ、合板に紙のような突き板(というより木のシール)で作られていることに驚きました。木を紙のように薄く加工する技術自体には感心したものの、やはり湿度の高いところでは、安い合板の家具はカビに負けてしまいます。

合板を使っていても、名のある家具製作所でつくられたものは湿気にも負けませんので、合板自体が悪いとは断言できません。素材の木の質や加工法による差だと思います。もっとも、解体して廃棄され、そのうえ貶されてばかりでは家具もかわいそうですので、軽井沢は、家具にとってはかなり過酷な条件であるということを付け加えておきましょう。夏の湿度の高さとは反対に、冬は外気温が氷点下10度以下になることも多く、室内は薪ストーブを使うなどで湿度が30%程度に乾燥しますので、家具はこの激しい温度差と湿度差に耐えなければなりません。

東京はカラリと晴れた猛暑でした 偽物では結局だめになってしまうので、新しく買い換える際には、湿気に負けない、水に強い材質の無垢材で作られた家具を探し、ある家具製作所の品を気に入ってそれで統一しました。

それ以来、家具のカビは一切なくなりました。 自宅にある無垢材の家具の材質は、ブラックウォールナット、ケヤキ、チェリー、ホワイトアッシュ(タモ)、オーク、屋久杉、桐などで、こうした材質は湿度には全く影響を受けません。今では湿度の高い時期の対応にも慣れ、家具を無垢材にしたこともあってか、カビに悩まずに過ごせるようになりました。

軽井沢の涼しさ、苔や緑の美しさを演出する霧や湿気は、住まう側にはさまざまな工夫を要求する夏の風物詩でもあります。湿気は住まいの大敵で困ることもありますが、それでも私は、軽井沢の夏を潤す霧が好きになってしまいました。

東京の乾いた猛暑の中での出張を終えて車で家に帰る道中、碓氷峠で車の窓を開けると、ひんやりとした水の匂いが風の中に感じられ、ほっとします。夜の霧の、夢のような世界で、白い濃霧のやわらかなミストを顔に浴びると、肌も心も蘇るようです。

ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4


関連する物語
  >> 序 「案内係のMです」
  >> 第13話「学びの場」(軽井沢の霧の写真)  >> 第48話「土の道」(軽井沢の霧の写真)
  >> 第6話「木の恵み 1」(東信地域の説明)  >> 第53話「野菜三昧」(東信地域の説明)
  >> 第94話「観察の季節」(冬の乾燥について)  
 
 
Copyright (C) 2003-2012 Sophiart Inc. All Rights Reserved.