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■第72話 「古艶(ふるつや)」 2012年8月13日
このところ、お盆近くになってようやくミンミンゼミが鳴き始めました。今まで鳴くのを忘れていたのでしょうか。連日花火も打ち上げられ、街は夏の気分で盛り上がっています。恒例の車の渋滞も最大級になり、軽井沢の表通りはパンクしそうです。
こういうときは、涼しい森の小道をお散歩するに限ります。離山通りの裏にある別荘地を歩くと、いつもは人もまばらな閑静な木立ですが、ある一角が多くの人で賑わっています。
湯島に本社のある創業110年の老舗硝子店のオーナーさんの別荘で、毎年恒例のガーデンセールが開かれているためです。私どもの家から、歩いて5分足らずの場所で、いつもの散歩道の途中にあるお宅ですので、私どもはこちらに来てからは毎年遊びに行っています。
武者立ちのモミジの古木が見事で、美しい苔が絨毯のように敷き詰められたすばらしいお庭の中で、その硝子店さんを中心にいくつかのお店がテントを張って格安で商品を並べています。
お盆前の期間という短い間のセールですが、社長さんやお店の人とお話しするのが楽しいので、私どもはこの期間は散歩がてら何度も立ち寄ります。
一流ホテルや有名レストランなどの飲食店で使われる食器が、アウトレットとはいえ、信じられない格安の価格で並べられ、緑の木漏れ日の中でキラキラとクリスタルやガラスが輝く様は見ているだけで楽しくなります。
中には、一箱6つ入った美しいグラスが全部で100円、など、ほとんどプレゼントとしか思えないものもあります。
美しいガーデンの中で楽しい会話を楽しみ、商品にまつわるおもしろい話を聴くなど、買い物と言うよりおしゃべりが楽しい場です。
4年前の北京オリンピックの頃に社長さんから聞いた話では、中国のガラス工場の裏話(公害問題の解消のため国家の強権発動による規制で1000を超えるガラス製造工場が操業停止に追い込まれた)が印象的でした。
そのほか、トルコのガラス工房職人たちの大らかな様子(大らかすぎてスコップ?を炉の火に投げ入れてしまい、その金属が溶けて偶然美しいピンク色に発色したガラスができた話)などなど、海外での生産も行う老舗硝子店ならではのおもしろい秘話を立ち話で教えてもらいました。
もう少し足を伸ばせば、旧軽井沢に出ます。軽井沢会テニスコートとユニオンチャーチの間を抜けると、夏の恒例の「骨董市」が旧軽井沢公民館で開かれています。全国から毎年骨董を扱うお店が複数集まり、夏の1ヶ月間無休で営業しています。
私どもは以前から中古カメラ店めぐりの趣味がありましたが、骨董の店をのぞくのも好きで、軽井沢の夏の骨董市も楽しみの一つとなっています。
一般に、骨董売買の世界と言えば怪しさと面白さ満載で、偽物をつかんでもすべて自己責任という世界は、お化け屋敷(失礼!)のようなスリルがあります。この骨董市でも掘り出し物もあるかもしれません。
ソフィアート・ガーデンの小屋には家具は少ししかありませんが、その少ない家具のほとんどは、英国アンティーク(またはユーズド)です。
アンティークの厳密な定義は、100年以上前のものを指しますので、あと20年ほど経てばユーズドもアンティークになるでしょう。これらは京都や首都圏のアンティーク家具店で、じっくり選んで一つひとつそろえていきました。
今はデフレと円高、欧州の経済不況により、信じられないほどの低価格で入手することができます。さらに、インターネットの普及により世界のアンティーク相場の比較が容易にできるようになったこと、そしてネットオークションで再販品が安く入手できる環境が身近になったことが、低価格化を後押ししているように見えます。
こんにち英国アンティーク家具は新品家具よりずっと安く売買されていますが、当時の良質な材(マホガニー、オーク、ウォールナットなど)を使い、職人が工房で手作業により丁寧に造った良質な家具が多くあります。
工業化と効率化、そしてコスト競争の波に飲み込まれる以前の古き良き時代の家具は、100年以上使って当たり前、という姿勢で作られているものがあります。もし同じものを手作業で復元しようと試みれば、とんでもない金額になるでしょうし、技を持った職人もその材も、現在はすでになくなっているかもしれません。腕の良い信用できる店で、適切なリペアとリストアをしてもらい、丁寧にメンテナンスして使えば、良いアンティークであれば、さらに100年は使えるのではないでしょうか。
日本でも、法隆寺などの1000年以上を経ても強度を保つヒノキなど、神社や寺社仏閣などの歴史的建造物を支える檜材の耐久性の高さが知られています。
木で作られた家具も同様のことがいえます。長い年月をかけて育ち適性に材にされ、十分な乾燥期間を経た上で優れた技で作られたものは、狂いもなく耐久性も高く、長い年月を経てさらに美しく古色・古艶 ( パティナ )をまとい骨董価値がでます。
軽井沢には家具の制作や修理をする工房がいくつかあります。その中でもある修理工房では、客先の家具の修理はもちろんのこと、自らも良質な中古品を仕入れてきて、丁寧にリペア、リストアをした上で販売もしています。その店は修理が上手で、店主のまじめで明るい性格もあり、家具の修理を依頼するお客さんが絶えません。
その店主の話によれば、軽井沢(特に古い別荘など)には上質の家具がたくさんあり、修理をすればまだまだ使える、と愛着をもっているお客さんも多いようです。 安く使い捨てされる家具が増えた時代と逆行するように、こうした「良いものを長く修理して使う」派が多いのも軽井沢の一つの特徴かもしれません。
あるとき、このお店で、とても雰囲気の良い、使い込まれたフランス製のダイニングセットを目にしました。店主が一目惚れして仕入れてきたばかり、ということでした。長年愛用する中でついたと思われる傷が若干ありますが、すっきりとしたシルエットと現代家具には見られない上質な材とつくりを見て、私どもも一目で気に入りました。
ちょうど、小屋のダイニングセットが欲しいと思っていた矢先であり、決して安くはありませんが私どもが買える値段でしたので、その場ですぐに購入予約をしました。店主がリストア、リペアして傷などを丁寧に磨いて直し、塗装もすべて新品同様にした上で搬入してくれました。
あとで調べてみると、フランスのEhalt社が、1800年初頭の新古典主義からリージェンシー様式を復刻したダイニングセットで、日本での販売価格は新品なら10倍以上することがわかりました。私どもが予約した直後に訪れたお客さんから、どうしても買いたいと、めずらしくキャンセル待ちが何組か出たそうですので、たまたまタイミング良く出会えてよかったと思いました。
実は、私は中古品自体はあまり好きではありません。誰がどのように使ってきたかがわかるものや、身内から譲られたものはそれなりに大切にしますが、使い手の不明な中古品というものに対しては本来は苦手意識が強く、自分のプライベートな生活空間では使いません。
しかし、信頼できる売り手さえ見つければ、現在では作られていない貴重な品が入手できる良さが、ユーズド市場にはあります。もともと古本屋めぐりや中古カメラで遊ぶ趣味がありましたし、オフィスやアトリエ、作業場としての小屋は中古家具の方がかえって気楽に使えます。
修理工房で入手した家具がきっかけとなり、全く興味がなかったアンティーク家具の世界に興味を持つようになると、出張のついでなどで全国のさまざまなアンティークショップを見て回るようになり、詳しい人に話を聞いたり書籍などで調べたりしていくうちに、その面白さにすっかりはまり込んでしまいました。もともとの趣味である古い建築物を鑑賞する際の楽しみにもつながります。
使っていて前のオーナーが丁寧に大切に使ってきたことをうかがわせる痕跡があると、知らない人とはいえ、その物を通して国を超え時代を超えて、前のオーナーと「いい家具ですよね」と会話しているような気持ちになります。
古き良き家具には、先人たちが大事にしてきた仕事への誇りと「わざ」が宿っています。「クラフト」における「わざ」は、作り手がこの世を去った後にも形となって長く残り、それに触れる人の心を豊かにしてくれます。
ソフィアート ・ ガーデン物語
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