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■第94話 「観察の季節 −建物観察とムササビ観察−」 2012年11月1日
軽井沢は湿度が高いと言われますが、それは夏の間のことです。霧と雨で潤っていた軽井沢の空気は今やすっかり乾き、日中は湿度も40%台になってきました。これから冬にかけては太平洋側の気候と同様に空気の乾燥した晴天の日が多くなります。最小湿度が30%を切る日もあります。
自宅の床やガーデンの小屋の床と壁は無垢板貼りであるためか、湿度に応じて微妙な木の「動き」が見られます。
湿度が70%以上にもなる梅雨や秋雨の頃は、板貼りの隙間がカミソリの刃も入らないぐらいぴったりとしていますが、湿度が30%台になる冬はわずかに隙間ができます。こうした動きを観察していると、無垢材は吸湿発散の作用があり、一年を通して湿度の多いときは水分を若干吸収して膨張し、乾燥する時は余分な水分を放出して収縮していることがわかります。そのためか湿度が高いときは屋内の結露もなく、湿度が低いときは極端な乾燥を緩和する働きもあるようです。
一方で、工業製品として規格をクリアした木質床材は安定しており、こうした「動き」はなく、ある意味で手入れが楽です。 施工する側からすればクレームも出ずに安心して使える素材ですが、無垢材の良さでもある吸湿発散の作用は期待できません。
無垢材は、このような「動き」を考慮して上手に施工できれば、経年変化も楽しめ年間を通して快適に過ごせます。特に軽井沢のように季節により、また日中と夜間とでも寒暖の差があり、湿度が極端に変化する厳しい自然環境では、木の無垢材の良さが発揮されます。
木々が葉を落とすこれからの時期は、軽井沢の散歩の楽しみが増えます。それは建物観察です。建物に興味のある人にはこれほど魅力ある土地は他にはないのでは、と思うほど軽井沢の別荘建築はおもしろく、優れた建築物が集積している地域だと思います。
住宅地は比較的区画が狭いため、建物は道路から見えますが、別荘地は区画が大きく、多くの場合、建物は道路から離れた敷地の奥にあります。夏の間は木の葉のベールに隠されていますが、これからは落葉により、建物が姿を現すようになります。
建物は庭と同様に、それぞれのオーナーのこだわりや思考が詰まっています。散歩途中に目に留るすてきな建物から、オーナーがどんなことを考え、大事にして家を建てたのかを想像しつつ、街並みとの調和や景観への配慮を通してオーナーの人柄を察したり、その工夫や知恵や技を鑑賞するのが、秋から春にかけての私の楽しみのひとつになります。
いつもは自宅から東側の雲場池を通って旧軽井沢方面に散歩をすることが多いのですが、たまには西側の雨宮池沿いを通って星野温泉やハルニレテラスで賑わう星野エリアまで散歩することもあります。
東の旧軽井沢の格式ある別荘地や商店街方面も、西の中軽井沢の星野方面も、自宅からはちょうど同じぐらいの距離にあり、歩くと結構な運動量になる散歩コースです。紅葉鑑賞も兼ねて、今回は西のコースを歩いてみました。
紅葉の美しい場所は、秋の軽井沢を楽しむ人で土日平日を問わず賑わっています。結婚式の記念撮影なのか、ウエディング姿の新郎新婦もあちらこちらで見られ、人もモミジも幸せそうに輝いています。
星野エリアにはピッキオという星野リゾートが運営するNPO法人があり、軽井沢の野生動物に関わる活動を行っています。
自然観察などを行う施設内では、季節に応じて野鳥やムササビの巣箱の映像がリアルタイムで見られるようになっています。秋のこの時期は、ちょうどムササビの巣箱の映像がモニターに映しだされていました。
ムササビは樹上で生活しており、木から木へ滑空して移動しますので、大木が連続する豊かな森でなければ生息できません。
ソフィアート・ガーデンにもムササビが複数生息していて、夕暮れ時には「グルルル・・・」と鳴き交わす声が響きます。しかしムササビは夜行性であることや、高い樹上で生活しており地面には降りないため、実際にこの目でムササビを見たことはありません。
そこで、ピッキオのスタッフにムササビの生態や観察方法について、いろいろと教えてもらいました。以下は私の質問にスタッフが答えてくれた内容です。
ムササビは完全草食であり、昆虫は食べない。木の芽や葉を食べ、それらがない冬の間は樹皮も食べる。木の実は基本的に食べず、胡桃や栗は食べない、ただしどんぐりは食べているようだ。地面にほとんど降りないので樹上に実っている状態のものしか食べず、落ちたものは食べられない。両脇に滑空のための飛膜があり、地上ではすばやく走れない。複数の木の洞などをねぐらにして単独で住んでいる。
巣箱を掛ける場合、巣材を運んでも必ずそこで寝るとは限らず複数の巣箱を使う。巣材は木の葉や草であり、鳥の巣材のような苔はみられない。軽井沢での繁殖期は冬(12月〜1月頃)で、冬眠はしない。妊娠期間は2ヶ月(3月頃出産)、養育は2ヶ月(5月に巣立ち)。メスも授乳以外では夜は外で活動する。「グルルル・・・」と鳴き交わすのは、つがい同士のこともあれば、春のオス同士の縄張り争いのこともある。
ムササビの巣箱は大きくて深い。猫などに襲われないような高さ(最低2〜3メートル以上)で設置すると良い。鳥の巣箱は雨水の浸入を防ぐために少々前に傾けて設置するが、ムササビの場合はそれほど気にしない。
冬は木の葉が落葉しているのでムササビが巣箱から外に向って滑空する様子が観察しやすい。生息域は日本全国で、平地でも社叢(大木の多い場所)などに生息する。晩に滑空するためか、「バンドリ(晩鳥)」と呼ぶ地方もある。
いろいろと質問する私に、スタッフの女性はとても楽しそうに丁寧に教えてくれました。夕暮れに高い樹上の巣穴を出て滑空する姿を見られるのは、秋から冬の間がチャンスだそうです。この秋は、ソフィアート・ガーデンのムササビ観察に、私も挑戦してみようと思います。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
関連する物語
>> 第10話「光と闇 1」(ムササビについて)
>> 第17話「巣箱」(ピッキオについて)
>> 第75話「霧の軽井沢」(夏の湿度について)
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