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■第99話 「お茶の時間 10」 2012年11月22日
町のあちらこちらで、落ち葉を焚く煙があがっています。ソフィアート・ガーデンの落ち葉は燃やしませんが、何カ所かにまとめて春まで小山にしておきます。
ガーデンに到着すると、私は早速箒を取り出して落ち葉掃除を始めます。すると、その音を聞きつけて、四方の森から小鳥たちが飛んできます。パートナーは小鳥たちのために、籠にヒマワリの種を入れてプレゼントにして、小屋の近くのアズキナシの枝に掛けます。
今日も早速、箒の音を聞きつけてコガラたちがやってきました。「ッッ、ビービー、ビービー」と鼻にかかった甘えたような声で鳴きます。一羽が鳴くと、何羽も集まって皆が「ビービー」と同じように鳴きますので、けっこう賑やかで、季節はずれの蝉の声のようにも聞こえます。
コガラはカラ類の中では小さい方で、フワフワと丸く白い体に黒いビロードのベレー帽をかぶったような羽毛が目印
です。黒のベレー帽からのぞく真っ黒の瞳は好奇心いっぱいの輝きをみせ、恐れを知らないかのように人の近くにも寄ってきます。あごにも黒い羽毛があり、背中の羽毛はグレーのグラデーションで、モノトーンのおしゃれなかわいい小鳥です。
コガラの騒ぎを聞きつけて、今度はヤマガラもやってきました。私どもによく懐いているヤマガラのオスは独占欲が強いのか、他のヤマガラを追い払うかのように追いかけ回します。
ヒマワリをくわえたまま、相手を遠くまで追い回して曲芸飛行を繰り広げる姿は、やんちゃを通り越してちょっと意地悪のようにさえ見えます。しかし、ペアのメスのヤマガラを守るという、オスの役目を全うしているのでしょう。メスのヤマガラは声があまり出ないため、かすれ声で「ニーニー」「スィスィスィ」と小さな声で鳴きます。ヤマガラは生涯同じ個体同士でつがいになると言われ、夫婦仲が良く、繁殖期以外でも一年中ペアで過ごしているように見えます。
ソフィアート・ガーデンのヤマガラ夫婦は、もう私どもとはすっかり顔なじみで、つきあいも3年以上になります。オスは、すぐに手にのってヒマワリの種のプレゼントを受け取りますが、メスはちょっと怖がりです。楽しそうな小鳥たちの邪魔をしないように私は落ち葉掃除に戻ります。
乾いた木の葉を熊手や箒でかき集める音が、遠くからも聞こえてきます。晴天続きで空気が乾いていますので、落ち葉もサラサラとして掃除しやすいのでしょう。軽井沢の最低気温も毎日氷点下になり、浅間山の雪も三度以見ましたので、軽井沢の町を雪が覆うのも間近です。町のあちこちでクリスマスの飾り付けも見られるようになりました。
小鳥たちの運動会の傍らで夢中になってガーデンの落ち葉かきをしているうちに、落ち葉の小山がいくつもできました。今日の分は終わりにして、そろそろお茶の時間にしましょう。
小屋の中では薪ストーブの穏やかな火が揺れています。薪ストーブの天板は弱火でコトコト煮る火加減を長時間保ちつづけるため、煮物に最高の場所です。何もしないのはもったいないので、これからの時期はもっぱら豆を煮ることが多くなります。大豆や黒豆、小豆、近くで取れる特産の鞍掛(くらかけ)豆も使います。
薪ストーブで暖をとるついでに、鍋によく洗った豆とたっぷりの水を張ってストーブトップに置いて1日放置すれば、ふっくらとおいしい煮豆になります。小分にして冷凍保存すれば料理にいつでも使えて便利です。
「鞍掛豆」という名前は聞き慣れない人も多いと思います。全国的には知名度は低く、当地以外ではまず小売店で見かけることはありませんが、こちらでは農産物直売所やスーパーなどで入手できます。
知る人ぞ知る、本当においしい豆だと思います。
色は緑地に黒っぽい班があり、豆の顔に黒い鼻がついているように見えて、かわいらしい豆です。ダシや醤油、みりんなどでひたし豆にするのが一般的なようですが、私はあえて味付けせずに水だけで少し固めに煮て、枝豆のような食感を残し、食べるときに少々塩をふります。他の枝豆より甘味とうまみが濃く、いくらでも食べてしまう、止められないおいしさです。
黒豆は砂糖で甘くしてもいいのですが、そのまま味をつけずに食べたり、ヨーグルトに混ぜるのも栄養価も高く美味です。水煮の大豆はミキサーでバナナやリンゴと合わせて煮汁ごとジュースにしてもおいしいものです。
他にもストーブでできるおやつとして焼き芋は欠かせません。サツマイモはもちろんですが、ジャガイモの焼き芋もおいしいものです。
軽井沢の近隣には、東御市と小諸市をまたがって御牧原台地があります。
冷涼な気候と遮るもののない良好な日当たり、そして粘土質の土がおいしい芋を育てるため、ここで育てたジャガイモは「白土ばれいしょ」として知られています。たいへんおいしく、市場では高値で取引されて料亭やレストランなどで使われるとか。当地では手軽に入手できますので、私どもは薪ストーブで蒸し焼きにして、塩こしょうとバターのシンプルな味付けで食べます。ほくほくとした甘味があって格別です。
私は自家製?の芋焼き器として、古くなったアルタイトの食パン焼き型(蓋のついたパン型)の中に、清潔な小石を敷き詰めて使っています。薪が熾火になって消えかける頃に、この芋焼き器に、洗った芋をいくつか入れて、ストーブ庫内で30分〜1時間ほど焼きます。
芋から出た水分で蒸し焼きのようになりますが、温度が高すぎると焦げたり、木が煙を出して燃焼している最中に焼くと木酢のような酸味臭のある焼き芋になってしまいます。失敗しないためには必ず、煙のない熾火の状態で焼くのがポイントです。
熾火でも火力が弱まった状態なら安心ですが、多少高温でも焦げないように注意すればできないことはありません。
焼き上がったら薪ストーブ用の耐熱皮手袋を着用して、やけどをしないよう注意して芋焼き器を取り出し、中の芋に串を刺して火の通り具合を確認します。上手に焼けていれば、蓋をあけるといい香りが漂います。芋焼き器を素手で触れるぐらいまで冷ます間に、石の余熱でさらにデンプンの甘味が増します。
お茶の時間のはずが、煮豆や焼きたての芋はおいしくて、ちょっと食べ過ぎてしまいました。夕食はストーブの熾火でアジの干物を焼いて、軽めに済ませることにしましょう。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート 長野県軽井沢町長倉 2082-4
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