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■第92話 「秋色」 2012年10月19日
大雨も去り、穏やかで明るい天気が戻ってきました。木の葉も実も、久しぶりの雨にきれいに洗われてあざやかです。
軽井沢の秋の降水量が観測史上の最大値を示した
2007年の紅葉
は、とても美しく印象に残っています。大きな被害をもたらした台風の後でしたので、特に印象深いのかもしれません。
「秋の夕日に照る山もみじ」と歌にありますが、夕日に赤や黄の葉が透けてセロファン紙のようにあざやかな紅葉は特に美しく、「西にモミジ」と昔から言われるのもわかる気がします。ソフィアート・ガーデンにおいても、季節や時刻に応じて変わる日差しを考慮して、その木がいきいきと健康を保ち、なおかつ美しく見えるように心がけました。
また、木を植えるときは色のコーディネートを考えました。木の色合いの美しさは、なんといっても春の芽吹きの頃でしょう。「緑」の複雑で豊かな色調を春の芽吹きの度に気づかされます。そして、秋の色の競演は黄葉と紅葉です。夏は全体に葉も茂って単調になりがちですが、秋のソフィアート・ガーデンは、明るい暖色の光に包まれるステンドグラスのような景色が楽しめます。
10月の終わり頃、真っ青な秋空を見上げると、中高木のヤマモミジの赤と高木のモミの常緑、カラマツの金色、クリやナラの渋みのあるオレンジ色が色を競い、シラカバの幹の白が引き締めます。
ガーデンの雑木林を見渡すと、クリ、クヌギ、クワ、ブナの黄色とドウダンツツジやニシキギ、コマユミの赤、そしてエンコウカエデのオレンジ色が、主役を装いながらもお互いを引き立てます。
秋色の主役は、赤より黄色でしょう。黄葉の代表である黄金のカラマツやイチョウ、渋い黄土色のクリやクヌギ、ブナ、そして明るいレモンイエローのアブラチャンやクワ、透明感のあるアオダモ、クロモジなど、黄色にも様々な色合いがあります。
緑の濃い森の中では、黄色は浮き立つ光のように目をひきます。
赤は緑と対比したときに、黄色に比べてどちらかといえば沈んだ色になります。しかし、オレンジや黄色だけでは単調です。この黄葉に深い赤が加わると、平板な風景に陰影が加わり、奥行きと深み、華やかさと静けさが増します。その意味で深紅の紅葉は、欠くべからざる色です。また、特に斜めの日差しに透ける赤は黄葉よりも美しいので、西や東に植えると赤の良さが堪能できます。
錦秋の色の邪魔をしないために、小屋の壁はあくまで背景に徹するよう木の幹の色に近い暗色にしました。
軽井沢の別荘建築においては、「建物外部の色彩は景観に配慮し落ち着いたものとする」という景観条例があります。そのため建物の色彩の明度や彩度が決まっています。
しかし罰則がないため、そうした決まりを無視する建物もあります。
建物はオーナーの意向を無視することはできませんが、町全体で美しい風景を維持していこうとする、こうした姿勢はすばらしいことだと思います。
ソフィアート・ガーデンの場合は庭が「主」で、建築物は「従」と考えます。ですから、小屋も庭を美しく見せるための風景のひとつ(背景)として考えます。軽井沢の雑木林の春色と秋色を堪能したい人、そして夏の霧と冬の雪の白色も愛でたい人には、私は、建物の色を地元の木の樹肌の色(こげ茶や灰褐色)に似せることをお勧めします。
人によっては外壁の色は青や赤や黄色が良い、という人もいます。自然の色はカラフルである。家を地味にするのは古臭い考えである、という意見もあります。
自然環境や風土、歴史的な背景が異なる中で、風景や建物の色、形を一律にあれこれ言うことは見当違いでしょう。あくまで、その地域の風景を皆でつくりあげる、という意識で近隣との調和を図ればよいことだと思います。
宿場の面影を残す街道沿いでしたら、壁を白漆喰にする日本建築などはたいへん美しく、風情があって私は好きです。
しかし軽井沢の別荘地においては、極端に明るい壁の色は、私のセンスでは「似合わない」と思います。
人によっては「似合う」と思う人もいるでしょうし、実際に、森の中にたたずむ、明るい壁色でセンスの良いすてきな家も数多くあります。
あくまで条例を守る範囲での話ですが、人が思いをこめてその人の好きな風景(建物や庭)をつくろうとする行為に対して、他人は口を挟むべきではないと私は思います。しかし、建物自体は私物であっても、街並みを形成している以上、外観は公共としての要素をもっていると考えます。その意味で、建物の外観がまわり(自然、街並み)と調和していることを重視します。一方で、家の中や暮らしぶりについては、他人が口をはさむ問題ではなく、好きなようにすれば良いとも思います。
建築物は、デザインや設計思想、素材感、庭やまわりの家、町並みと調和しているかどうかが重要です。もし、単体ではどんなにすばらしい建築物であったとしても、地域の町並みや風景と調和せず、浮いているのであれば、それは景観という面で好ましくありません。
これから、もみじ前線が日本中を覆い、どの街でも秋色を楽しめる季節がやってきます。車で街中を走っていて、美しい樹木の色とよく調和する家並みを見るとうれしくなります。
反対に、なぜここまでひどい景観になってしまったのか、という場所もあります。日本全国どこにいっても、同じような商業施設や娯楽施設の派手なネオンサインばかりが目立つところがあります。きっと地元の人々も、苦々しく思うであろう有様です。
日本の豊かな自然は、四季それぞれに固有の細やかな色を見せ、その土地に生きる人々の感性もその色の影響を深く受けています。
その土地の季節の色を大切に思い、風景の中でその色を美しく見せよう、と「美と調和」を少しだけ意識することで、日本の四季はもっと、心に染み入る美しいものになると思います。私どもも、ソフィアート・ガーデンの手入れの褒美として、自然からいただく秋色を堪能したいと思います。
ソフィアート ・ ガーデン物語
有限会社ソフィアート
スタッフM( 竺原 みき )
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