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■第22話 「小鳥の友情 2」 2012年5月9日

冬から春先の自然界に食べ物が乏しくなる時期に、私どもは野鳥のフィーダー(餌台)を設置します。そして、小鳥たちが私どもの手から落花生のかけらなどのプレゼントを受け取るようになると、身近に接する小鳥たちとの間に心の交流が生まれます。

ヤマガラはエゴなどを貯食します 第5話「小鳥の友情」の続編として、今回は、私どもがソフィアート・ガーデンを作り上げていくきっかけとなった、あるヤマガラとの出会いについて紹介したいと思います。

私どもが軽井沢に引っ越して間もない頃、とても頭のいいヤマガラと仲良くなりました。私どもは、そのヤマガラに「Mくん」と名前をつけました。(名前は秘密にしておきます、ただし私とパートナーの名前ではありません・・・)

Mくんは、じつに豊かな感情表現と高い運動能力を見せ、私どもを驚かせました。パートナーが脚立に乗って高い場所に巣箱を取り付けたとき、巣箱と手の間の、ほんの数センチの隙間をサーカスのようにすり抜けて飛び、落花生をくわえたまま曲芸飛行を繰り広げ、他のカラ類を追いかけて蹴散らすなど、やんちゃでいたずら好き、しかし人に媚びない誇り高い性格で、仲間思いの優しいところもあります。

小鳥が私どもの手に乗るようになったのは、実はMくんが最初です。それは、ある大雪の日曜日のことです。寒いというのに、パートナーが屋外で小鳥たちにプレゼントするヒマワリの種の入ったカゴを手に、ひょっとしたら小鳥が乗るのではないかと期待しながら木のようにじっと立っていました。すると、好奇心旺盛の頭の良いMくんが、期待通り、パートナーの手にちょこんと乗ってくれたのです。

とても賢いヤマガラ Mくんは、私どもにとって「恩人(恩鳥?)」にあたります。会社(ソフィアート)をスタートしたばかりであり、また望んで引っ越したとはいえ軽井沢の冬は寒く、私どもは心身ともに張りつめて過ごしておりました。

そこに登場したMくんとの交流で、ほっと和み、楽しく冬を過ごすうちに、軽井沢の冬が大好きになり、心待ちにするようになっていました。それまで私どもは、寒い冬には苦手意識がありましたが、Mくんをはじめ多くの小鳥たちとの出会いによって、高原の冬のすばらしさ、厳しさ、いのちの大切さを知ることができたのです。

Mくんは落花生のプレゼントを受け取ると、必ず「スィスィ!」とお礼?を言う礼儀正しいヤマガラで、また来客があると必ずどこからともなく飛んできて、曲芸飛行を見せてお客さんを驚かせるというサービス精神も旺盛でした。

Mくんはプライドが高く、こちらが地面に投げたり、間違って落としたりした落花生には決して見向きもせず、私どもの手の平からきちんと渡された落花生しかプレゼントとして受け取りません。

そして他の鳥たちと違い、自分からはプレゼントを催促もしません。気取って「スィスィスィ」と高い枝から私どもを見下ろして小さな声で鳴くぐらいです。こちらが気づいて落花生を差しだし、「Mくん、おいで!」とこちらが呼べば、「やあ、偶然だね!」という雰囲気でふわりと手の平に降りてきます。着地も上手で、こちらが気づかないほど軽やかです。もし、このMくんに芸を仕込むことができれば、相当のことが出来そうな気がします。

勝ったよ! Mくんとは、落花生を手の平ではなく親指と人差し指でつまんで差し出し、力を加減しながら引っ張り合いのゲームを楽しむこともありました。最後にはMくんは上手に私の指先から落花生を抜き取ります。そんなときMくんは嬉しそうに、勝ったとばかりに「ケケケケ!」と鳴いて遠くへ飛んでいきます。

ある日、ちょっとしたいたずら心で、いつもより強めの力で落花生をつまんだため、どうやってもMくんは私の指先から落花生を取れません。何度もトライして、私の目を困った顔でのぞき込みます。3、4回引っ張っても取れないとなると、私のいたずらに機嫌を損ねたMくんは、「ふん!」とそのまま遠くへ飛んでいってしまい、3日間ほど近くに来てくれませんでした。

私も、ちょっとやり過ぎたことを反省して、それ以来小鳥のことをからかってはいけない、と心を入れ替え今に至ります。その後Mくんは、私を許してくれたようで再びプレゼントを受け取ってくれるようにはなりました。

春は葉の色の対比がおもしろい Mくんはある年、繁殖期にしばらく姿を見せなくなりましたが、秋のある日、ペアのメスと若い仲間(子?)を連れて私どもの庭に来ました。

Mくんとの再会を喜び、私どもが落花生のプレゼントを持って手を差し出すと、いつものようにさっと受け取ります。いっしょに来た若いヤマガラが、初対面の私どもに躊躇して腰が引けていると「大丈夫、行きなさい!」というぐあいに蹴る動作で私どもの手に乗るよう、後押しします。

この人たちは大丈夫、と若いヤマガラに教えてくれているようで、とても嬉しくなりました。皆さんご存じのOJT(On-the-Job Training)ですね。

あるとき、この若いヤマガラが、大きな鳥か何かに驚いた拍子に私どもの窓硝子にぶつかってしまい、しばらくボーッとして動けなかったことがあります。ほかのヤマガラは知らぬ顔でしたが、Mくんはずっと近くの枝で、若いヤマガラに付き添うように、大きな声で鳴いて応援し続けていました。数分後にはすっかり回復し、特にけがもなく普通に飛べるようになって安心しました。

その後もMくんとの交流は何年か続きましたが、私どもも出張が重なるなど、あまり姿を見ることもなくなり気になっていました。ある日私が庭に出ると、ほっそりとやせた感じのMくんが、ひらりと私の前に現れました。結構な老鳥ですので、若い頃は鮮やかだった羽毛のオレンジ色も薄く、少し斑点もあります。

私がMくんの後継ヤマガラです 「Mくん、久しぶり、元気だった?」嬉しくていろいろと話しかける私のもとに飛んできて、ほんの10センチほどの距離まで近づき、Mくんは私の目を見て、今まで聞いたこともないような不思議な声で鳴きます。まるで、こちらの話を真似るかのように、おしゃべりするリズムで長々とささやきます。地鳴きでもさえずりでもない、初めて聞くヤマガラの声です。そうして、しばらく私の眼を見て何度か、話しかけるように鳴いた後、さっとどこかへ飛んでいきました。

その後Mくんは庭で2,3度目にしましたが、もう私どもの近くへは来てくれませんでした。やがてMくんを見かけなくなりましたので、あのときはお別れに来てくれたのだろう、と思っています。

以前、Mくんが私どもの手に乗るように後押しした若いヤマガラは、窓硝子にぶつかった事件のあとは元気そのもので、長い間Mくんに代わって私どもと大の仲良しになってくれました。
Mくんとは正反対の、おっとりとした性格で、体の大きいメスです。

何年も私どもの庭に遊びに来てくれましたが、ある日、Mくんと同じように、不思議な声でお別れの挨拶をしたあと見かけなくなりました。きっとMくんと同じように、森に帰っていったのでしょう。


 『 ソフィアート・ガーデン物語 』 第22話 「小鳥の友情 2」 
有限会社ソフィアート スタッフM( 竺原 みき )


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